「わらの犬」1971年米 評価4.4


監督:サム・ペキンパー
出演:ダスティン・ホフマン、スーザン・ジョージ、ピーター・ヴォーン他

1988年、2023年11月観賞

 数学者のデイヴィッドと妻エイミーはアメリカの物騒な都会生活から逃れるため、エイミーの故郷であるイギリスの片田舎に引っ越してきたが、アメリカ出身であるため村の若者たちから嫌がらせを受ける毎日。しかし気弱なデイヴィッドはただ穏便にやり過ごすだけであり、段々と村の若者の行動がエスカレートする。ある日、精神薄弱者で、村の若い娘に手を出したと誤解されているヘンリーを家に匿ったことから、彼をリンチにかけようとする若者たちの総攻撃を受ける。

 正直、全体の2/3までは、その日その日を気ままに好き勝手に生きている粗暴な田舎の青年たちの行動にほとほと嫌になってくるし、気が弱く、その弱さを隠すため(隠せてないが)になんとも煮え切らない態度をとるダスティン・ホフマン演じる数学者デイヴィッドの言動にもイライラする展開が続く。

 そんな中、デイヴィッドの妻のエイミーがスレンダーなのにめちゃくちゃ無駄に色気があることが、細かなストーリーの起点にもなっているとともにその後の展開のキーにもなり、なんだかささくれ立った展開ながら興味をもって観進められるのだが、いきなりの怒涛の後半1/3の緊迫感は半端ない。

 静から動への物語の転換が見事すぎるとともに、また、動の部分がぶっ飛んでいると感じるのは静の部分における入念な仕込みが非常に効果的なのだと思う。まさに静あっての動と言え、その効果を最高に助長しているのがホフマンの演技。気弱な間は本当にイライラするし、一方でネジが吹っ飛んでからは何をしでかすかわからない狂気の目になり、ほんの10分程度でここまで人が変わるのかということに真実味を付与しているのは彼の演技によるところが大きい。

 本作から人生のためになるものを得られたり、感動するということは皆無なのだが、シンプルかつ入念に作られた衝撃的な内容で、奇才サム・ペキンパーの数少ない現代劇の中で最高傑作と言える異色傑作。