「キリング・フィールド」1984年米 評価4.6
監督:ローランド・ジョフィ
出演:サム・ウォーターストン、ハイン・S・ニョール、ジョン・マルコビッチ他
1987年、2023年6月観賞
ニューヨーク・タイムズ記者として、カンボジア内戦を当地の新聞記者であるディス・プランと共に取材し、後にピューリッツァー賞を受賞したシドニー・シャンバーグの体験に基づく実話の映画化。
1970年代のカンボジア内戦に関する「ポル・ポト政権」とか「カンボジア難民」などのニュース言語は、私の小学生時代にはよく目にしていたもので、カンボジア内戦は初見時の1987年ではまだ生々しく記憶に残っていた。本作に対する一部評価にはその悲惨さを十分表現できていないというものがあるが、2時間強の尺と、残虐シーンのみを並べるわけにはいかない娯楽である映画にそれを求めるのは筋違いであり、本作では十分にカンボジア内戦時の大国の傲慢さ、一般市民の命の軽さ、生命の尊さなどが表現されていると思う。
映画としては、前半のアメリカ人シドニーが主のパートと後半のカンボジア人プランのパートが少し縦割りの感じがあるが、全編緊迫感に溢れ、かつ最低限、当時の政局なども端的に取り込まれていて、この題材にしては上手くまとまった良い内容になっている。
実話に基づいているとともに、実際は、本作でアカデミー助演男優賞を受賞したハイン・S・ニョール自身のカンボジア内戦で4年間拘束された経験も、拘束期間の描写にかなり反映されている。元々素人のニョールの演技自体は特段素晴らしいとは思えないものの、実体験している人にしか不可能な鬼気迫る表現は演技という枠を超えた感動を醸し出す。
音楽はインストゥルメンタルアルバムの最高峰『チューブラー・ベルズ』(73年)を製作したマイク・オールドフィールド。劇中の音楽にはあまり秀でた感を受けないものの、エンディングの「キリング・フィールドのテーマ(エチュード)」が素晴らしい。『チューブラー~』を彷彿とさせる多重録音により、単調なメロディのくり返しでありながら、暗い雰囲気をイメージさせる冒頭から、徐々に明るい音色の楽器を追加し、最後には悲惨な中にも希望を感じさせるという、本作の内容を端的に振り返らせる音作りで、映画音楽として非常に完成度が高い作品。なお、最後のシーンに流れる『イマジン/ジョン・レノン』はちょっとあざといけれども、平和を謳いあげるという観点ではやはり涙を誘わずにいられない。
正直なところ、今でも世界で戦争がない日はないため、もう50年ほど前の出来事であるカンボジア内戦は現代人の記憶にはほとんど残ってないだろうから、反戦や命の尊さに対する思想に対し、本作がどの程度訴求力があるかは疑問ではある。しかし、小学生時代に、定期的に写真ニュースが校内に張り出されてカンボジア難民が取り上げられていたことを記憶にとどめる世代には、単なる感動物語以上の感情が胸に迫ることだろうと思う。