「ター」2022年米 評価3.5
監督:トッド・フィールド
出演:ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、ノエミ・メルラン他
2023年5月観賞
リディア・ターはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の女性初の首席指揮者で、指揮者として様々な賞を受賞している第一人者。しかし、リディアはその地位による権力を使って、気に入った音楽家を採用したりしていたが、被害者の1人が自殺したことにより訴訟で訴えられ、キャリアの危機を前にして徐々に精神の平衡を失い始める。
端的にいえば、ブランシェット姉貴を堪能する映画。
本作は一般視聴者感覚でいうと主に3つの欠点があると言える。
一つ目が尺の長さ(158分)。クラシック音楽の専門的なやり取りがかなり長く、長尺に耐性の高い私でも長く感じてしまう。一方でこれにより姉貴の演技を堪能できるので、個人的にはプラス面で相殺できるレベルではある。
二つ目が登場人物が多く、それぞれの場面に割かれる時間が短いため、名前と顔が一致しづらいこと。主要登場人物5,6名は認識できるものの、キーパーソンの一人である副指揮者候補だったクリスタって誰よ??とか、特に中盤までは話についていくのがかなり困難。
三つ目が転落していくターはどこまで悪行を働いていて、ターが全面的に悪いのかという真実があやふやのままでストーリーがぼやけていること。突出した能力のある人が一般人と同じわけはなく、ある程度強烈な個性を持っているのは当たり前と、私は思っている。講義中の出来事はターが悪いというより、それを悪意をもって編集した動画投稿者がおかしいのだし、確かに個人的嗜好でオーディションを行ったにしても、最終決定は複数の評価者の判断であるのでターだけの責任でもない。楽団の質を維持するためには古い友人でさえオミットすること自体は正当な判断。権威者は下の者すべてに認められるわけはなく、必ず反感は買うもので、それでも判断は下さなくてはならないもので、ターのしてきたことが、少なくとも映像上では極悪なものとは私は思えない。また、クリスタが自殺したというのもターの蛮行が原因なのかの裁判の結末も曖昧。なので、ストーリーに納得感がない。
以上のような諸々の欠点はあるものの、監督が姉貴のために書いたという脚本を、姉貴は完ぺきに解釈し、演じていることが主要因で長時間に亘って弛んだところはなく、映画の質は極めて高い。