「ザ・ホエール」2022年米 評価2.3
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ他
2023年4月観賞
パートナーであるアジア系青年を亡くしたショックから、過食症で270キロを超える肥満体となり歩行器なしでは移動もままならないチャーリーは、大学のオンライン講座で生計を立てている中年教師。ある日、病状の悪化で自らの余命が幾ばくもないことを悟った彼は、離婚して以来長らく音信不通だった17歳の娘エリーとの関係を修復しようと決意する。
本作で明確に主張されている主題は「自分の感じたことをそのまま伝えろ」ということだと思うので、従来通り、本作についても自分の思ったことを赤裸々に書く。
端的にいうと、自分勝手に生きてきた中年肥満男が、自己満足のために自分の行為を美談にしようとしている痛い物語。
恋人だった青年を亡くした哀しみから超肥満体になったという経緯自体は理解できるものの、青年と暮らすために妻と娘を捨てて顧みず、肉体的にも金銭的にも献身的に世話をしてくれるその青年の妹に対し、金がないから病院に行けないなどと嘘をつき続け、密かに金を蓄えている男が主人公。
9年間も会ったことさえない高校生の娘との関係を修復しようとするが、娘は反抗的で心も荒んでいる。娘は、太った醜い父親の写真をSNSに上げて笑いの種にし、新興宗教の青年の告白話を録音し、大麻を吸っているところの写真ともどもSNSに上げる。それが結果としてその青年と家族の和解につながっても、それは偶然でしかなく、娘に善意があったとはとても思えない。
そんな行為を繰り返す娘を、たった数行書いただけのエッセイ(しかもそれが素晴らしいとは全然思えないのだが。。)を根拠に「素晴らしい」と連呼する主人公は、相手を別れた当時の8歳の子供としかみていない、ただのご機嫌取りとしか思えない。娘を一人で育て、反抗期になってもなんとか暮らしてきた母親や、世話をし続けた女性の気持ちを考えると、彼らの苦労を理解しようともせずに、死が迫ったとたんにきれいごとを言うだけの男に、共感できるわけがない。彼は、人生を点でしか考えていない。人生は長い道のりの間に積みあがるものを背負ったものとは考えられないのだ。ラストはなんだか綺麗に、感動を誘発するように終わるのだが、その後、娘が改心するとは全く思えない。
ストーリー、映画としては面白い。だけど、上述のこととか、いきなり夫婦が昔の思い出話に涙するとか、補助なしで立つことすらできなかったのに2,3日で立って歩けるようになるとか、なんだかおかしな演出が多く、それに加え、私の人生観に対しての違和感が徐々に蓄積して何とも嫌な気分で観終わり、エンディングが終わる前に席を立ったのは記憶にないほど久しぶり。