「海の上のピアニスト」 99年米・伊 評価3(5点満点) メジャー度3
監督:ジョゼッペ・トルナトーレ
出演:ティム・ロス、プルート・テイラー・ヴィンス他
ロンドンで愛用のトランペットを売りに来た風貌のさえない男は、「売る前に最後の1曲を吹かせてくれ」と吹き始める。それを聞いた店の主人は昔のレコードを取り出し,「この曲と同じだが,誰の曲なのか。」と男に聞き,男はその質問に答え始める。
その曲を吹き込んだのは、かつて1900年に豪華客船に捨て子として放置され,そのままその船のバンドのピアノ弾きとなった男。彼は一度も陸に降りたことがないため、トランペット奏者の心の中以外、どこにも存在しない演奏者なのだった。
この役のためにピアノの猛特訓をしたティム・ロスの演奏シーンと,いわば外の世界から隔離されたまま生きてきたことから,ちょっと常人とは変わった性格の持ち主であることを表現した演技は素晴らしい。
しかし、ピアノ弾きと客船の3等室に乗りこんでいた女性との淡い恋と別れなど,所々トルナトーレらしい心のひだを触るようなシーンがあるものの,どうも二番煎じのような気がしてしまう。初監督で「ニュー・シネマ・パラダイス」という世界中の映画ファンの涙を絞った傑作を作ってしまったため,どうもそれを越えられない。ちょっとばかりわざとらしいユーモアや疑問を持ってしまう展開などの演出面は監督の特性だからしかたがないものの,ラストのピアノ弾きが残っている船の爆破は「ニュー・シネマ〜」の映画館の爆破につながるし,ピアノ演奏のスペクタルは「シャイン」のそれを連想させ,新鮮味がない。
トランペット奏者が回想している時代の設定は1950年代中ごろか?客船は停泊したままの病院となったあと今は老朽化し,爆破を待つばかり。彼が船の中を探し回り、ピアノ奏者を発見するのだが,1900年に産まれ,第2次世界大戦中も客船のピアニストとして活躍したピアニストがなぜ,そんな経歴の船から1歩も外に出ずに暮らしてこれたのか?発見時にバリッとしたタキシードを着ているのか?ラストの展開がどうも納得できない。原作がそうなってればしょうがないが,ピアニストをわざわざ生きていた存在として登場させたのは失敗ではないか。 ラストの感動させようとする長ったらしい台詞回しも少々うんざりだ。
しかしながら,エンリオ・モリコーネの音楽はいつものごとく心に響く。また,エンディングのタイトルロールで流れる曲を歌っているのが,ロジャー・ウォータース。彼はピンクフロイド全盛期のリーダー兼ボーカルだった男。その懐かしい独特の歌声に最も感動してしまった。