「愛と追憶の日々」 1983年米 評価4.8
監督:ジェームズ・L・ブルックス
出演:シャーリー・マクレーン、デブラ・ウィンガー、ジャック・ニコルソン他
1986年、2022年7月観賞
テキサス州に住むオーロラとエマは言い合いが絶えないながら仲の良い母娘。エマは国語教師と結婚し家を出て、夫の不倫に悩ませられながらも3人の子を育て、母オーロラは娘を案じながらも時には厳しく突き放す。ところがある日、エマが癌に侵されていることが判明する。
公開当時、アメリカではウーマンリヴ運動により女性の地位がだいぶ確立されていた時代。その時代において美しいがガサツで専業主婦として3人の子供を育てるエマ(ウィンガー)を主軸に物語は展開する。個人的に、その責務を全うする女性の生き方は、立派な一つの選択肢であると思っていて、それに対し偏見を持つエマの親友を取り巻くニューヨークの友人たちとの会話は酷いもの。結局W不倫に陥るのだが、エマの精一杯の生き方には共感してしまう。
本作の最も素晴らしいのは主役級3者(マクレーン、ウィンガー、ニコルソン)の演技で、初見時から好きな女優だったウィンガーはガサツな主婦であり、母オーロラと衝突しながら理解し合い、母の嫌いな不倫している夫とも愛し合っている、愛情豊かな女性を完璧に演じきった。そしてエマとは結婚と共に別れ、一人暮らしとなったオーロラを演じるマクレーンは、初老の独り身の寂しさを、強気な表面を崩さない中で絶妙に表現。オーロラの隣家に一人で暮らす元宇宙飛行士ギャレットのエキセントリックでありながら孤独な生活の中で徐々に打ち解ける心を持つようになる様子をコミカルになりすぎる境界線上で演じたニコルソン。この3人の空気感が超絶的に良い!!特にマクレーンとニコルソンの関係がとっても素敵。ベットを挟んで向かい合う二人のシーンはおかしくってしょうがない。
本作の描かれる期間が数年間だとしたら登場人物の性格描写に疑問を抱きかねないのだが、10年間程度を描いていること、そして主役級3者(マクレーン、ウィンガー、ニコルソン)が映像上飛ばされた数年間の心の変遷をも表現する名演を魅せることで、物語が全く破綻していない。それぞれに悩みを持ちながらも一生懸命人生に向かい合い自分を変えていく。登場人物たちの前向きな意識が全体から滲みだしてくる。
最終的には悲劇的なラストを迎えるのだが、例えばエマの息子二人の態度は、さもありなんというもので、全体的に泣かせようとしない演出も非常に好ましく、現実的であるなかで、それだからこそギャレットのエピソードが生きていて、一般的などの世代に対して、人生に向き合うことに少しだけ背中を後押しするような魅力的な内容であることが、36年前に観た時以上に感じ取られ、当時と同等の高評価となる名作。