「独裁者」 1940年米 評価4.7

監督:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、ポーレット・ゴダード、ジャック・オーキー他

1986年、2022年5月観賞

 第一次世界大戦の事故で記憶をなくしたトメニアという国(ドイツを想定)に住むユダヤ人街の床屋さん。何とか故郷に帰れるも祖国では独裁政権がユダヤ人迫害と隣国への侵略を始めようとしていた。

 36年ぶりに鑑賞して改めて感嘆するのが、チャップリンのパントマイムとコメディ場面の高精度。まさにドタバタ喜劇の手本というか、日本でいえばのちにドリフターズが確立したお約束のコントや外国語をめちゃくちゃに話すところとかが、すでにこの時代にチャップリンが完成させていたということが驚き。最後の演説場面はあるものの、全編、お約束の場面ではやっぱり可笑しくて笑ってしまう。そのためコメディ映画としては2時間超と長いにも関わらず、笑いの要素が高密度であっという間に進行していく。間違いなく面白い。

 明らかに第二次世界大戦中のドイツの愚行を猛烈に批判する内容なのだが、製作がまだ大戦佳境前の1940年ということに驚かさせる。それほど、チャップリンはドイツの行動に心を痛めていたということなんだろうし、それが最後の大演説につながっている。

 この演説シーンは賛否両論らしいが、主義的な観点で気になることはあるのかもしれないが、今聞くとすごくまっとうなことしか言っていない。本作後、世界は大戦に向かっていくのだが、それに先駆けて本作で発言していることがすごいことだ。特に今、ロシアのウクライナ侵攻が継続していて、なんて愚かなことをやっているのだろうと、チャップリンが80年以上も前に映画を通して訴えた当たり前のことがどうして人類はわからないのだろうと非常に残念だ。

 今、観て欲しい映画であるし、こんな、笑いを通じて人類の幸せを訴えるような内容の映画を作れる製作者は今やどこにもいないと思うと、やはりチャップリンは映画界のジャイアントであり、忘れてはいけない映画人であることが認識できる傑作。