「愛と哀しみの果て」 1985年米 評価4.5
監督:シドニー・ポラック
出演:メリル・ストリープ、ロバート・レッドフォード、クラウス・マリア・ブランダウアー他
1986年、2022年3月観賞
第一次世界大戦前。婚期を逸したデンマークの資産家の娘カレンは、資産を分け与える代わりに男爵夫人の称号を得るためスウェーデン人の男爵と結婚し、英領の東アフリカに移り住み、農場を経営する。元々夫に対し愛情の薄かったカレンは、アフリカで、一匹狼のハンターであるデニスと行動を共にし、やがて二人は愛し合うようになる。ストーリーのベースとなるのはデンマーク人作家のカレン・ブリクセン自身が書いた自伝的な「アフリカの日々」。
実際にケニアで撮影された、人間のちっぽけさを感させるような広大な風景をゆったりと俯瞰させて見せる中、ストリープ演じる主人公カレンと多く接するのはたったの3人で、大自然の中で移ろいゆく人間の心情、運命に翻弄される人生を、160分という長尺で描かれる。名優たちの名演もあり、これでもかというほど役者たちの動きや表情を丹念に描写することでそれぞれの人物像が熟成されていく。
当時、デビューから10年と経っていないながらすでに大女優の風格を漂わせるメリル・ストリープがやっぱり素晴らしい。元々は薄幸の顔立ちながら、恋をしたときにはハッとするような美しさも感じさせ、作中で芯の通った精神力や女としての気の弱さも垣間見せたり、やはり不世出の名優であることを再認識。当時アラフィフだったレッドフォードも魅力大。やはりプラピはレッドフォードに似ているんだなと思うし、ブラピよりもずっとハンサムで爽やか。この二人のシーンに十分な時間をかけるのだが、映像は決してストーリーを追わない。二人を追ったらストーリーになったとでも言うべき描き方で、その流れに身を任せると全く時間が気にならない。
再鑑賞で気づいたのだが、アカデミー音楽賞を受賞した、美しく、アフリカの壮大さを感じさせるテーマ曲(ジョン・バリーの職人技。名曲!)は頭尾以外にたったの1回しか使われず、長尺の中音楽すら不用意な盛り上げを行わない。地球という惑星の大きさすら感じさせる映像は映画館で観るべき。スピーディで複雑な人間関係、人間社会という中での猥雑さを描く最近の映画的風潮からは全く受けない映画(実際、各映画評論サイトで評価は低い)だと思う。確かに長尺で、中年男女の恋愛ものというジャンルに入るので、中々観てみようと食指は伸びない映画だと思うが、今の時代、こんなに映画的に贅沢な作品は絶対に作られないだろうと、私にとって本作はまごうことなき名作の範疇に入る。