「西部戦線異状なし」 1930年米 評価4.8
監督:ルイス・マイルストン
出演:リュー・エアーズ、ルイス・ウォルハイム、スリム・サマービル他
1985年、2022年3月観賞
第一次世界大戦中期から末期。劣勢になりつつあったドイツでは学生を扇動して戦地に就かせ巻き返しを図っていたが、戦況は悪化していく。大学時代に兵隊となったポールはドイツ内での戦況報告と実際の戦場の違いを痛感し、戦争自体に疑問を持つようになっていた。
1929年に発表されたドイツ人レマルクの「西部戦線異状なし」をハリウッドが映画化。そのため、ドイツ人が主人公でありながら英語を喋るという違和感はあるが、当時の映画業界を鑑みれば仕方がない。それよりもハリウッドで映画化されたことにより、本作のスケールを実現したというメリットの方が大きい。後に「突撃/キューブリック」や「プライベート・ライアン/スピルバーグ」で観られるような戦闘シーンの長回しやセリフもない緊迫した肉弾戦の描写など、のちの映画界に大きな影響を与えていることは間違いない。
原作者自身、ドイツ兵として従軍経験があり、本作の主人公ポールはほぼレマルク自身。よって、軍隊や戦闘、戦備品などの描写は実態に近いもので、スケールの大きさもさることながら細部までリアリティにこだわった内容。若者がなぜ戦場で戦い、死んでいくのか、人を殺すということがどういうことなのかという戦争に対する疑問、戦地での異常性と仲間意識、戦場で長く生活した人間の精神性ストレスと疎外感、内地の人間の無知などなど、その後映画でも繰り返し描かれる題材をほとんど内在している、戦争映画の金字塔。
第一次世界大戦から100年以上が経過した今も戦争はなくならない。しかも今はハイテク技術を駆使し、感傷なくゲームのように人を殺せる武器が多く、生命の重みを感じないまま戦火は悪化する。人類はどこまで愚かなのか。100年近く昔の作品ながら、そんな気持ちをも想起させる内容だし、また、ラストのなんという映画的美しさよ。高校生の頃の1回目も評価5で、現在でも同等の評価となる、間違いない傑作。