「カセットテープ・ダイアリーズ」 2019年英・米・仏 評価4.2


監督:グリンダ・チャーダ
出演:ヴィヴェイク・カルラ、ネル・ウィリアムズ、クルヴィンダー・ギール他

2022年3月観賞

 1987年イギリスの田舎町ルートンで暮らすパキスタン移民の子である高校生ジャベドは、パキスタンの風習である父親絶対主義の家庭で悶々と暮らしている。ある日、同じパキスタン移民の同窓生にブルース・スプリングスティーン(Boss)を薦められ聴いてみるジャベド。Bossの歌にはジャベドの心を震わせる言葉があった。

 話の筋は「CODA あいのうた」や「遠い空の向こうに」とほとんど一緒で、ぱっとしない高校生が、理解ある高校教師の助言を受けながら家庭的ないろんな障害を克服して才能を開花させるというもの。そこに新味は全くないのだが、本作ではパキスタン移民であることによる人種差別、イスラム教のしがらみ、そしてなによりブルース・スプリングスティーン(Boss)の楽曲がスパイスとして追加される。

 ストーリーに特記するところはなくても、丁寧に作られていれば高評価は確定する内容なのだが、そこにさらなるプラスの加点がされるか否かは、どこまで内容に感情移入できるかによる。主人公は1971年に生まれた設定なので私と同年代。洋楽に嵌まっていた時期もほぼ一緒なので、主人公の高校時代とはほぼシンクロする。そのため、全編通じて流れるBossの曲と歌詞(私はBossのアルバムの中では「明日なき暴走」と「ボーン・イン・ザ・USA」が特に好きなので、もう堪りませんヨ)、当時の流行りの洋楽群とその背景にあるネタが小気味よく胸に響いてきて、自然と楽しい鑑賞時間を過ごすことになる。一方で、あまりにその時代の洋楽に特化されているので、特に興味のない人はある程度Bossの歌詞に感化されることはあっても、より普遍的な「CODA」とかのほうが胸に響くのでは?とは思う。

 ジャベドの親友の父親がいい味出していて、確かに当時のイギリスのポップス・ロックは軟弱なイメージがあって、それよりBossのほうが断然良いという態度でミュージカル的シーンに加わって歌って踊る姿に、こちらまで楽しくなってしまう。

 個人的ツボは「愛に抱かれた夜(あえて邦題で!)/カッティング・クルー」(カラオケで歌う時は初めの30秒のみで演奏中止ボタン、ポチ)。バンドが一発屋で終わったため、アメリカのNo.1ヒット曲の割にかなりマイナーな曲。そんな曲をかなり目立ってフューチャーしてくれるなんて、この一発で好感度大に!