「道」 54年伊 評価4.5(5点満点) メジャー度4
監督:フェデリコ・フェリーニ
出演:アンソニー・クィン,ジュリエッタ・マシーナ他
胸に巻いた鎖を胸筋と肺の膨らむ力だけで引き千切るという芸で全国を廻る大道芸人ザンパノは妻が死んだため,その妹である知能の遅れたジェルソミーナを1万リラで買い,旅の相方,女房として連れまわす。はじめは料理もなにもできないジェルソミーナもそのうち簡単な芸を覚え,ザンパノを助けるようになる。しかしザンパノは女と遊び,ジェルソミーナをまるで家畜のように扱う。ある日,ザンパノがジェルソミーナに優しくしてくれていた綱渡りの男を殴り殺して以降,ジェルソミーナは気が触れてしまう。彼女が邪魔になったザンパノは彼女の寝てる間に彼女を捨て,旅だってしまう。
フェリーニが愛妻ジュリエッタを起用した初期の頃の名作中の名作。ニーノ・ロータの哀愁漂う名曲も印象深い。フェリーニの作品というと「81/2」「女の都」という名作にしても,なにやら訳のわからぬ映画が多いものだが,これはわかりやすく感動的である。
知能が足りないというか,頭は子供のまま大人になったジェルソミーナは純粋な心を持ち,綱渡りの男から教わった「どんなものでも何かの役に立っている」という言葉を胸に「こんな自分でもザンパノの役に立っているはず」とザンパノに尽くすが,ザンパノがそれに気がつくのは数年後,彼女が死んだという話を聞いてからという残酷な物語だ。そのようなユダヤ教的な考え方は,宗教は別にしても,誰もが幼い時に信じられる考え方だと思う。それが,だんだんと物質的な欲求などにかき消されて忘れてしまうのだが,とても大切な気持ちだと,はっとさせられた。それは,“星の王子様”の「本当に大切なものは心でしか見えないんだよ」やラピュタやトトロの「純粋な心を持った者だけに見える」という思想に結びつくもので,年と共に失われてしまう大切な心だと感じている。それを思い起こさせるこの映画は大人の映画である。