「スタンド・バイ・ミー」 1986年米 評価4.8


監督:ロブ・ライナー
出演:ウィル・ウィートン、リバー・フェニックス、コリー・フェルドマン他

1989年、2022年2月観賞

 1959年夏。小学生時代最後の夏休みを過ごす4人の仲間は、数十キロ離れた森に、道に迷って列車に撥ねられた少年の死体があることを聞きつけ、一泊二日の計画で、死体を見るために徒歩で現場に行く。

 私は小学、中学とも地元の公立学校に通ったが、そこでは様々な資質を持った、様々な家庭環境下にある子供たちがいた(貧しいシングルマザーの子もいれば、片親の連れ子として暮らし、荒れた生活の果て、シンナーに酔って小川の側溝に落ちて溺死した中学生もいた)。高校以降は学力によって区分けされ、学力という面ではほぼ均一な学友たちの中で戯れ、社会人となってからは無意識に自分の知識レベルや趣味が合う人たちを見つける中で自分にとっての最適な環境に馴染んでいくことになる。

 私は子供のころ決して悪がきではなかったが、沼地でザリガニの尾肉を餌にザリガニ釣りをやったり、ガマ蛙の口に爆竹をくわえさせて爆発させたり、水風船を団地の最上階から人めがけて落としたり干してある布団に投げつけたり、そんな、普通の子供なら誰でもやっていたこと(?)を友達の家庭の素性とか諸々のことなどお構いなしで一緒に遊んでいたものだ。だから、遠い昔の記憶になりつつあるが、本作での子供っぽい盛り上がりには、微笑ましいというより懐かしいという気持ちが湧き上がってくる。

 本作で印象に残るのは語り部であるゴーディ(私が4人のうちの誰に似ているかといえばゴーディ。根は真面目で馬鹿になりきれないが、馬鹿とは上手くやっていける)が、森の中で鹿に会うシーン。大学時代の友だち3人でのアメリカ、レンタカー旅行の際、ロッキー山脈の森の中で不意に鹿類の大きな動物に出会った。まさに絵を切り取ったような静寂な空間であり、そんな澄んだ思い出を思い起こさせる。また、住む町に戻った時の朝もやの映像が、小学生のときの昆虫採集のため朝早く森に繰り出したときの思い出とシンクロする。

 さて、本作ではやはり、リーダー的な存在であるクリスを演じるリバー・フェニックスが出色。不良の兄貴を持ち荒くれた家庭環境の中で精神は鍛えられ、常に落ち着いていて仲間思いで、聡明でありながら自分の人生をあきらめているという複雑な心境の少年をこれ以上はないという好演。

 死体探しという本筋はあるものの、細かい少年時代によくあるエピソードの積み重ねというストーリーで、一歩間違えば、子供のバカ騒ぎによるユーモアと単なるノスタルジーを感じさせるような凡庸な映画になってしまうところを、微妙なタイミングでの大人になった自分からの振り返りや、急くことのない展開と、誰もがかつて感じたであろう気持ちや雰囲気の自然な映像化によって、どの世代が観ても愛すべき空気を感じられる名作に昇華させることに成功した稀有な作品。

 「複雑な家庭環境のなかで仲間との友情を感じた12歳の頃のような友達は、二度とできることはない」 あのころを懐かしむことはあっても、ではあのころのような友達を今作れるか、作りたいかとなると、やはり出来上がってしまった自分という人間の枠を大きく外れた人との関係構築は困難で面倒で憂鬱な気持にもなってしまうもの。もうあの頃の自然とできた関係性は二度と構築できないと、ハタと気づく。こんな気持ちを起こさせる作品は本作をおいて他に存在せず、小品でありながら唯一無二の名作あるとともにスティーヴン・キングの最良の映画化作品。