「誰が為に鐘は鳴る」 1943年米 評価3.2


監督:サム・ウッド
出演:ゲイリー・クーパー、イングリッド・バーグマン、エイキム・タミロフ他

1986年、2022年2月観賞

 1930年代後半のスペイン内戦において反ファシスト軍に参加していた米国の大学スペイン語教師だったロベルトは、戦略上重要となる橋を爆破する任務を背負い、スペインの土着民からなるゲリラ隊に協力を求め、そこで、ファシスト軍に両親を殺されたものの、ゲリラ隊に助けられていたマリアと知り合う。

 もともとヘミングウェイ作品には登場人物の生きざまをその一生の流れや関係する人物との関わり合いを含めて表現するという特徴があり、その内容は映像化するには不向きであると感じる。実際、本人の文豪としての名声と比較し映画化作品で秀でた作品がないのはそのためではないか。

 さて、鑑賞したのは157分版。約5年前にヘミングウェイの原作を読んでいる(2回目)ため、今回の視聴でよくわかるのは原作に忠実に作られている点。その結果、かえって映画としての面白さに欠けていると評価せざるを得ない。小説は、それぞれの場面の奥深い背景、心理の描写があるため決して退屈な作品とは感じないのだが、映画となると観客が期待している2大スターのラヴロマンスと直接関係のない部分が表面的になぞるだけだったり、関連性の薄い人物描写の印象になったりして、どうしても冗長な印象になるのだと思う。

 原作の主人公ロベルトは、そもそも舞台となるスペイン戦争で命を落とすことを厭わない気持ちを持っているとともに、いくらスペイン語教師とはいえ、土着のスペイン人と対等に会話できるわけでもなく、マリアとのロマンスはその場だけの最後の思い出という意識が強い。そのためマリアに対峙する気持ちは普通のロマンス映画のような相思相愛になり得ない中で、映画版でそのロベルトの感情を忠実に表現したものだから、原作を知らない人はなんとなくマリアだけが盛り上がっていて、いまいちクールで、ラストも死ぬことをあっさり受け入れてしまうロベルトの描写に拍子抜けするのではないかと思う。また、この時代の映画ではしかたないのだが、背景が絵という場面はどうしてもそれに気づいてしまい、いちいち気が削がれる。

 一方、どうしようもなく輝いてしまっているのはやはりバーグマン。自ら売り込んで役を獲得したというだけあって、スペインの田舎町の町長の娘で、心と体に傷を負った情熱的な女性を熱演しているのだが、できるだけ知性を表に出さないよう腐心していることはわかるものの、持って生まれたものはやはり隠しきれない。あの美貌で「キスするときに鼻と鼻がぶつからないのかしら」という名セリフを言われたり、大粒の涙を流されたら男としてはたまらんな、とは思うものの、正直この役柄にぴったりフィットしているとは言い難い。