「男はつらいよ 望郷編」 1970年日 評価3.3


監督:山田洋次
出演:渥美清、倍賞千恵子、前田吟、森川信、三崎千恵子、太宰久雄、長山藍子他

2022年1月観賞

 おいちゃんが亡くなる夢を見た寅次郎は柴又に戻るが、上野駅からの寅次郎の電話でとらやの面々は「おいちゃんが息も絶え絶え」と冗談を言う。葬式の準備をしつつとらやに戻った寅次郎は激怒。再度放浪の旅に出ようとするが、昔世話になった臨終間際の極道者が愛人に産ませた子供に会いたいと北海道で寅を待っているということを聞き、北海道に飛ぶ。

 完全に確立した寅さんシリーズのパターンに沿った内容。とらやでひと騒動からの旅先でのひと悶着。マドンナ登場からの寅さんの失恋。非常にコンパクトにまとまっていて、ストーリーにもマドンナにも、マドンナらとの絡みにも特筆するところはないのだが、特徴的なところでは、おいちゃんとおばちゃんのやり取りがもう漫才のようで、個人的に森川信のおいちゃんが一番好きなところもあって、とても楽しい。マドンナは1時間経過後に登場し、あっという間に寅さんの勘違い失恋になるので、今回はそこに焦点は全く当たっていない。その代わり、寅さんが真面目な生活に目覚め、それを続けることができるのかが真剣に描かれており、さくらとのやり取りも妙に生々しく、その点は観応えがある。

 鑑賞後に知ったのだが、当初は本作でシリーズを完結させる予定だったとのこと。そう思って振り返ると、確かに寅さんが真面目に働こうと思ってできなかったところのシリアスな演出には感じ入るところはある。テレビ版でさくら役を演じた長山藍子がマドンナ、とらやのおばちゃん役を演じた杉山とく子がマドンナの母役、博役を演じた井川比佐志がマドンナ節子の婚約者を演じ、テレビ版を全く観たことのない私には気づけないが、当時の人には、作品を締めくくるため以前のキャストを総動員させたのだろうとピンと来るだろう。確かに本作で最終であっても特に違和感は感じない内容になっている。