「トト・ザ・ヒーロー」 91年ベルギー・仏・独  評価4.5(5点満点) メジャー度3

監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ミシェル・ブーケ、ミレイユ・ペリエ、ジョー・ドゥ・バケール他

 ある夜,一人の老人が殺された。はたしてその顛末はどう導かれたのかを,老人ホームのトマの回想形式で物語は進む。隣家の父親の指示がもとで事故死してしまった父、隣家に放火する際に死んでしまった姉のため、隣家を恨みつづけた少年時代。愛し合っていた姉のことが忘れられず,良く似た人妻との不倫に精を出した青年時代。これらはすべて病院の火事で隣家の赤ん坊と取り違われたせいだとして生きてきたトマは、取り違えられた,今は同じく老人となった隣人のアルフレッドを殺そうと老人ホームを抜け出す。

 殺された老人は果たして誰なのか,というサスペンスを主軸に,取り違えられたと思いこんではいたが,楽しかった少年時代,姉に似た人妻との結局はすれ違いになってしまう恋愛という甘酸っぱい思い出を絡め,ヨーロッパ映画独特の叙情性を発揮した傑作。結局は,老人ホームを抜け出したあと,自分が生きてきたことは決して無駄ではなかったことをいくつかのエピソードから悟ることになり,衝撃の結末へと極緩やかに行動を移してゆく。人生のおかしさ,楽しさを存分に教えてくれる,久々に観たヨーロッパ映画のホームラン。

俳優達の上手さ(いつも書くことだが,ヨーロッパ映画の子役は素晴らしい)は言うに及ばず,最後、トマの意識を持った遺灰が空中から思い出の地を舞っていくラストのトマの笑い声と映像が素晴らしく印象に残る。