「ガス燈」 1944年米 評価4.3


監督:ジョージ・キューカー
出演:イングリッド・バーグマン、シャルル・ボワイエ、ジョセフ・コットン他

1985年、2021年10月観賞

 19世紀の末、ロンドンのソーントン通りの家で、有名な女性歌手が刺殺される事件が起きる。その女性歌手の姪であるポーラは、事件を忘れるためにイタリアに歌のレッスン留学に出るが、伴奏者グレゴリーと恋に落ちて結婚し、殺された叔母の遺産であるロンドンの家に住むことになる。

 本作は、描かれた時代が19世紀末なので、現代の感覚からは夫人の描き方に古めかしさを感じるのは否めない。確かにポーラは結婚したグレゴリーの言いなりで行動できないでいることがもどかしい面があるが、描かれた時代を考えれば至極当然のことで、そのことで映画の評価を落とすのは違うと思う。なぜにこんなに美しくて完璧な女性を虐めるのかという疑問の答えが徐々に明らかになっていくというサスペンスも良くできているし、一軒に供給されるガス量が一定なため、他室で使われた場合灯りが減衰するという点、誰もいないはずの上屋からの足音などの演出効果も緊張感を高める上に、なにより次第に精神的に追い詰められていくポーラ演じるバーグマンの確かな演技力により、一流のサスペンス映画に仕上がっている。

 贔屓目に見てしまっているのかもしれないが、明らかにハリウッド女優とは異なる内面からの知性(結果的に5か国語を操れる)と誠実さ(実際、この誠実さは関係者から多数証言証言されている)を感じて、数少ない伝説的な女優の一人であるバーグマンを堪能できる、彼女自身、初めてアカデミー賞を受賞した作品。

 1980年代、学生だった私のアイドルは、ブルック・シールズでもフィビー・ケイツでもなく、イングリット・バーグマンだった。高身長で、知性を感じさせる整った美貌は完ぺき無比で、私の個人的嗜好にぴったり合致。演技力も確かで、ロッセリーニと逃避行を行うなどの経緯も大女優という印象を後押ししていた。

 なぜか、時折とっても艶やかなドレスを着て登場するバーグマンには違和感は感じるものの、まぁこれはすでにハリウッドスターという地位を確立していたバーグマンのファンに対するサービスであろう。しかしまぁ、すでに1児を儲けていた大柄なバーグマンのなんと細いウエストであることよ!