「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」 1973年日 評価4.3
監督:山田洋次
出演:渥美清、浅丘ルリ子、倍賞千恵子、前田吟、松村達雄、三崎千恵子、太宰久雄他
1986年、2021年8月観賞
フーテンの寅、今回のマドンナは北海道の地で出会った場末のキャバレー歌手のリリー(浅丘ルリ子)。数時間言葉を交わしただけで意気投合。そのまま別れるが、リリーが葛飾柴又に立ち寄った時に偶然とらやで寅さんと再会。お互いに流れ者の二人は赤裸々な意見をぶつけながらも魅かれ合う存在となる。
マドンナが寅さんと同じ流れ者という設定であるため、いつもの、寅さんが美しい女性に惚れて振られてという定番とは異なった内容が軸にあり、その分物語が深いものになっている。リリーが、寅さんには帰る家があり、暖かい肉親がいることに対して羨ましがることにより、前半はいつも通りのやり放題の寅さんが、後半は帰る家がある幸せ、流れ者の哀しみにしみじみと気づかせられる展開は、渥美清の演技者としての深みも垣間見せることにもなり、人生の悲哀を感じさせる秀逸な内容。
実に35年ぶりの再鑑賞。高校生当時の評価は3(多分この要因は厚化粧の浅丘ルリ子を表面的にしか判断できず、全く魅力を感じられなかったためと推察される)だったのだが、この評価はぐんと上がる。家族や故郷の有難さをわかる年齢になったことにより、本作に描かれる人生の奥深さに気づく点が非常に多くなったためと思われる。本シリーズはテンポも良く(良すぎるくらい)、その中で笑いも、本作では芝居の間による感傷も特に秀でており、50作まで製作された世界最長シリーズ映画の所以がわかるような気がする。しばらく、リリーシリーズを観てみようと思っているのだが、中学~高校の時に観た場合の感じ方とは間違いなく異なってくると思う。
今年3本目の本シリーズ鑑賞となったが、つくづく気づかされるのが妹・櫻(倍賞千恵子)の存在感。寅次郎と正反対の美しい容姿に優しい心だけでなく、日常生活における疲れというものも本作では垣間見せる。それが寅次郎と正反対であるがため、結果、この兄妹はお互いにお互いの特徴を際立たせて長所短所を浮き彫りにする。間違いなく櫻も長シリーズ化に多大に貢献した登場人物だと思う。