「ニュー・シネマ・パラダイス」 1988年伊・仏 評価4.9
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:フィリップ・ノワレ、ジャック・ペラン、サルバトーレ・カシオ他
1990年2回、2021年8月観賞
故郷シチリア島の小さな村から離れて30年、ローマで著名な映画監督となったサルヴァトーレ(トト)は幼年期に故郷で世話になった映写技師のアルフレードが亡くなったという連絡を受ける。小学生の頃、映画が大好きでアルフレードを大火事から救った後映写技師となり、20歳で、アルフレードの「村を出ろ。そして戻ってくるな」という言葉を受けて旅立ったトトはその当時の想い出を回顧する。
映画が唯一で最大の娯楽だった時代。その熱気の描写が丁寧で映画の持つ力を如何なく表現し、無邪気に笑えるシーンも数多く、一方、ヒロインのエレナはとっても美しいし、幼年、青年、中年期を絶妙に配分した構成もバランスが良く、エンニオ・モリコーネの音楽は神懸っていて,“小品”の部類には入るだろうけど、愛さずにはいられない名作。私はトルナトーレ作品は「海の上のピアニスト」が余りに泣かせる演出過多で辟易してから苦手になったのだが、本作ではどの場面も描き方が丁寧で忙しいところがなく、過剰なセリフも排除して映像と役者の演技で見せるという姿勢が貫かれているのが良い。-0.1点は青年期の描写がちょっとだれるところのみ。
数ある涙腺崩壊ポイントの中で、私が特に好きなのは、父親の戦死の報を受けて母親と家路を歩く中、まだあどけないトトが崩れた壁に貼ってある「風と共に去りぬ」のポスターを「クラーク・ゲーブルに似ていた」父親を思い出しながら見つめるシーンと、アルフレードの葬式の際、映画館主に向かってトトが歩いていく途中、自分のところに来たと勘違いした、”映画のセリフを先回りして言ってしまう“映画大好きおじさんが、素通りされて寂しげな表情をするシーン。その他にも印象に残るシーンも、名セリフも多すぎて懐かしすぎて、しょっちゅう観ても飽きないだろうと思えるくらい、もうやっぱりこの作品が大好きなんだなぁ。
30年以上前に、本「劇場公開版」を2回、「完全オリジナル版」を1回、映画館で鑑賞している。それ以来になるが、ストーリーや画面を完全に覚えているのは、もちろん、印象的なシーンが多いということもあるが、今でも時折耳にするモリコーネの音楽により、その都度少しでもこの映画のシーンを思い出すからか。この二つの版の比較は良くされるが私はどちらも大好きで、前者は映画愛に溢れているし、後者は取り戻すことはできない青春時代のノスタルジーが加味され、その分、映画愛は希薄にはなる。ただ、観方は「劇場公開版」→「完全オリジナル版」の方が絶対に良いと思う(「劇場公開版」の一番最後のカットが使われていない中年期のシーン。監督はオリジナル版に未練があったのだろうな)。この反対だと“本当はこのシーンの後にあのエピソードがあるんだよなぁ”という邪念がどうしても沸いてきてしまう。
今では大変有名な作品だが、日本公開はシネスイッチ銀座のみの単館ロードショーで、実に40週連続上映という、当時のSNSなどない世相からしたら信じがたい記録を打ち立てた。私はこの映画館で2回鑑賞している。当時のシネスイッチ銀座の内観は特異で、ひな壇みたいな席もあって、その構造が本作にある昔の映画館のような雰囲気があって好きだった。2回目は母親と二人で観たのも良い思い出。また、当時付き合っていた彼女に本作のサントラ盤をプレゼントし、その彼女と結婚して家にサントラ盤が2枚あったということとか、そういう諸々の想いも含めて、特別な映画なのである。