「メッセージ」 2016年米・英 評価3.8
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー他
2021年7月観賞
世界12か所に異星からの飛行物体が突然出現した。言語学者のルイーズはアメリカに出現した飛行物体近傍に設置された基地に召集され、飛行物体内の異星人の言語を解明し、「なぜ地球に来たのか」の回答を得ることという指令を受ける。
冒頭から未知の飛行体が出現し、ルイーズが召集されて異星人(「ヘプタポッド」と名付けられる)の言語の解析を行うところまでの描写はなかなかに緊迫感がある。そして、解明した結果として、異星人には時間という概念がなく、異星人の発する墨で描く言語には、地球でいう未来をも事実として表現されることがわかる。この考え方はカート・ヴォネガットの「スローターハウス5」に登場するトランスフォーマ星人の「世界は4次元であり、その人物の生まれてから死ぬまでを一貫してみることができる。それはひとつの物体であり変えることはできない」という世界観と全く同じであるのが私的には非常に興味深かった。また、劇中では世界12か所のそれぞれの飛行体への各国の接し方がバラバラで、結果として協力することを止め、地球に突然飛来し空中で静止している巨大飛行体を製造できる極めて高度な科学力を持つような異星人に攻撃しようという猪突猛進的な判断をするアホな国家が実際にありそうで、そのサイドストーリーの展開も緊迫感を煽る。
ラストにはルイーズが実はこのヘプタポッドと同様に未来を感じられる特殊能力を持っていることを自覚することで、それまで劇中に挿入されるルイーズの記憶にある子供の映像の意味が解明するシーンとその後のルイーズの選択も感慨深く、観終わってすぐはすっきりした余韻にも浸れる。
しかし、鑑賞後に振り返ってみると、3000年後に地球人に救われるという未来が事実なら、なぜヘプタポッドは地球に来たのか?12に分割され、各国に発信された言語は結局一つにならず、中国が攻撃をやめたことですべて丸く収まるというのも不可解で、武力の不均衡や自国主義の利潤追求は依然として継続するはずで、この後地球全体として一つになるとも思えず、地球上の問題はなんだか解決したとはとても思えない。特殊能力を持つルイーズがたまたま召集されたから解決したという高い偶然性もちょっと気にかかる。
観終わってすぐはかなりいい映画と思ったものだが、振り返るに矛盾部分がすぐに想起されてしまい、繰り返し観る映画ではないな、と感じてしまう。