「ミッシング」 1982年米 評価4.1
監督:コスタ=ガヴラス
出演:ジャック・レモン、シシー・スペイセク、ジョン・シーア他
1986年、2021年7月観賞
1973年、軍事クーデターの起きた南米・チリで、妻ベスと暮らしていたアメリカ人の青年チャールズ・ホーマンが行方不明になる。ベスから知らせを受けたチャールズの父エドは現地でベスとともにチャールズの行方を追うが、米国大使館などは非協力的で何もわからない状態が続く。しかし、チャールズの残したメモによりクーデターに米国が深く関わっていたことがわかってくる。
1973年9月のチリクーデターにおいて殺害されたチャールズ・ホーマンを題材とし、冒頭、「この映画は実話」(に基づくではない)で「記録に忠実に描かれている」と断りがある。その通り、映画としては、チャールズの行方の追跡とチリクーデターに米軍が絡んでいたことが判明してくるところのサスペンス的な側面はあるものの、ほぼ前半はアメリカ人や富裕層はホテルであまり危機感もない感じですごしているし、観客には何が起こっているのかよくわからない。また、チャールズがクーデターの8日後に殺害されていたことがあっさりと判明するなど、本当に「記録に忠実」に製作されたのだろうと思う。
しかし本作の見どころはそのクーデターの部分だけではなく、チャールズの父エドの、一人息子と息子の妻への理解の変遷。初めは頼りない息子が左翼を気取って隠れているだけと高を括っていた父が本当の息子の姿を理解し、息子の妻と本気で息子の消息を追うようになっていく。そのドラマ部分が、アカデミー主演賞俳優のジャック・レモンとシシー・スペイセクの名演もあって秀逸。このため、息子の死をあっけなく知らされる父エドの悲しみ、そして母国アメリカへの怒りが胸に響く。
高校生だった一度目の鑑賞時の評価は5。35年が経った今も、性懲りもなく世界では内紛があちこちで発生し、映画の映像はさらに残虐な描写が増えている。40年近く前のこの映画は直接的な殺害現場は皆無だし、社会派監督であるコスタ=ダヴラスの徹底したリアリズム追求の内容・映像は、正直、現代においては地味な印象を与えるだろう。しかし、世界情勢や映像によるインパクトは我々が現在の境遇に慣れてしまったために低下しているだけであり、当時としてはこのクーデターの緊迫感、国同士の大きな流れの中の個人の命の扱われ方が、とても衝撃的だった。
なお、上述の通り初めは何が起こっているのかわからないので、チリクーデターをざっと予習してからの方がより楽しめると思う。