「飢餓海峡」 1965年日 評価4.3


監督:内田吐夢
出演:三国連太郎、左幸子、伴淳三郎、高倉健他

1989年、2021年6月観賞

 戦後混乱期の北海道。刑務所を仮釈放された二人組は、函館近くに住む資産家を殺傷して家の金庫にしまってあった大金を奪取し家屋に火をつけて逃亡。その二人と肉体労働の職場仲間だった犬飼はその事件とは無関係ながら彼らと同行することになる。逃亡中、台風の影響で青函連絡船が沈没する事故に遭遇した三人はそのどさくさにまぎれ、盗んだボートで本土への逃避を図る。

 強盗放火殺人事件から本土への逃避。そして主人公と一夜を共にしただけだが大金を渡され生活を変えることができた青森県の女郎だった女性の上京してからの逞しい人生描写を挟んでの、8年前の事件の真相究明という流れが、写実的でありながら凝った映像演出も交えて緊迫感をもって描かれることで、単純なミステリーという枠を超えた力作として仕上がっている。

 登場人物の描写や警察の捜査や尋問自体には古さを感じてしまうのだが、それはそれで1960年代であればそういうものだったのだろうと理解できる。ストーリーとしては特に秀でているわけではないのだが、本作はそれと同等以上の比率で戦後当時の貧困層のギラつく生きざまや人生の流転の悲哀を織り込んで表現していることが、名作と謳われる所以だと思われる。

 役者たちの熱演も見事で、三国連太郎の朴訥とした雰囲気の大男からの関西弁を巧みに操る能弁な事業家への転身もすごいが、女郎という道からは抜け出せなかったものの、田舎女から都会で独り立ちした女の情念を表現する左幸子が殊の外素晴らしく、3時間超という長さを感じない。

 ただ、画面上の口の動きとアフレコが合わないところが気が散るくらい多く、もう少し何とかならなかったのかと思う。