「河内山宗俊」 1936年日 評価3.4


監督:山中貞雄
出演:河原崎長十郎、中村翫右衛門、原節子他

2021年5月観賞

 所場代を取り立てる用心棒金子は、年端も行かぬ美しい娘お浪が営む甘酒屋からは所場代を免除してやっていた。しかし、お浪の弟である不良の広太郎は賭場に出入りし家にも帰ってこず、お浪を困らせていた。広太郎は遊郭にいた幼馴染の女と心中を図るが女だけが死亡。広太郎はその落とし前として三百両を請求されるが払えるわけもなく、お浪は身売りする決心をする。

 ところどころ唸らせるカットや構図、粋なセリフのやり取りなどにこの稀代の名監督らしい非凡性を感じるのだが、如何せんセリフが聞き取りづらい。5割方何を言っているのかわからない(のにストーリーは把握できるというところはすごいのだが)。

 江戸時代の胡散臭い「表坊主」だったという実在の河内山宗俊は、現代ではほぼ知られておらず、私も前知識ゼロで鑑賞し始めたため、なぜ河内山に裏の力があり、大名家の屋敷に乗り込み小柄の値定めができる立場なのかが全く分からず、理解できない展開もある。

 撮影当時15歳という原節子がその歳とは思えぬ色気を醸し出し、「人情紙風船」の主役コンビ(河原崎&中村)が息の合ったところを見せ、「丹下左膳」にも出演していた極楽コンビのやり取りが楽しく、やはり映画の質、脚本の魅力が高いことは疑いようがないのだが、映画の内容を十分理解できるか、現代において一般的に他の人に勧められるかという観点からは、セリフが聞き取れないというのは大きな減点要因になるし、製作後80年が経過し、当時の常識が今の常識ではないことは避けようがなく、客観的に評価するとこの評点となってしまう。