「ファーザー」 2020年英・仏 評価3.7
監督:フローリアン・ゼレール
出演:アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、イモージェン・プーツ他
2021年5月観賞
80歳を過ぎたアンソニーは娘のアンの毎日の手助けを受けつつもロンドンに一人暮らししている。夫と共にパリに移住したいアンだったが、気難しいアンソニーはヘルパーをつけても難癖を付けては追い出す始末。自分を正常だと信じるアンソニーだったが、ある日、家に見慣れない男がおり、さらにアンと名乗る知らない女が我が物顔で家に出入りしているのを見て混乱する。
認知症と幻想を見る病気も患っていると考えられるアンソニーの主観で物語は進み、観客もアンソニーの何かがおかしいという前提で観ることになるのだが、前半の進行はミステリー調でもあり緊迫感あふれる内容。結局はすべてがアンソニーの見ていた幻想というのが真実であり、一日寝ると翌日には覚えていない同じような日々が、自分の意識のないままに繰り返されるという恐ろしさに身がつまされる(自らの身に起きる不可解さに対する恐怖は「メメント」を彷彿とさせる)。
何にしろアンソニー・ホプキンスと娘役のオリヴィア・コールマン、この二人のアカデミー受賞経験者の演技が素晴らしく、ミステリー調の内容と相まって、非常に地味な内容で物語的に広がりのあるものではないのだが、一時としてだれることがない。ただ、結局は誰もがいずれ患うことになる認知症の寂しさ、孤独感にすべてが収束することから、この舞台の枠を外れた部分まで面白さの広がりは感じられないので評点はこの程度に落ち着く。