「ストレンジャー」 46年米  評価4(5点満点) メジャー度1

監督:オーソン・ウェルズ
出演:オーソン・ウェルズ他

 オーソン・ウェルズというと,日本では「イングリッシュアドベンチャーのおじさん」との認識しかもってない人が多い。多少映画を知っている人なら,「第三の男」に出ていた事を思い出すだろう。しかしアメリカでは、ハリウッド100周年祭の史上No.1映画に、オーソン・ウェルズが若干25歳のときに撮った初監督作品「市民ケーン」(41年製作)を選んだほど,彼の評価は高い。とはいっても「市民ケーン」が新聞王の孤独な人生を描いたために,当時実在した新聞王からこっぴどい批評をされたため,興行的にも成功せず,彼はその後波乱の人生を送らざるをえなかったのだ。41年に頂点に上り詰め,その後は下っていった彼なので,当時戦争中だった日本に彼の名声が届かなかったのは当然の成り行きではあった。

 そんな中で製作されたこの映画だが,完成度は高い。ユダヤ人虐殺を指揮してきたドイツ人(ウェルズ)がアメリカの片田舎に潜伏していた。戦争犯罪委員会は彼を捕まえるべく彼の戦争時代の友人である男マニキをわざと牢獄から脱獄させ,マニキを尾行することで彼の居場所を突き止める。しかし,彼の顔は戦時中から誰も知らず,尾行してきた男も確証は持てないため逮捕することはできない。どう逮捕するのか。または,彼は逃げ延びることができるのか。言葉でなかなか説明できないミステリーで,ヒッチコック調でもある。ウェルズはもともと舞台俳優なので俳優達の演技も一流である。

 ウェルズの映画はこのほかにも「市民ケーン」「オセロ」をみたが,とにかく映画に引き込まれてしまう。いい映画なのだが,芸術性におぼれることなく娯楽性があるという点では黒沢明に通じる物がある。

 惜しむらくは,オーソン・ウェルズの類まれな才能である。もしも,「市民ケーン」が公開当時正当な評価がされていたならば,ストーリーの面白さ,映像を含めた完成度の高さなどから憶測して,長きに渡って超一流の仕事をしたものと思われる。