「日本のいちばん長い日」 1967年日 評価4.2
監督:岡本喜八
出演:三船敏郎、笠智衆、宮口精二、山村聡、小杉義男、志村喬他
2021年5月観賞
1945年夏。敗戦濃厚の日本は連合国軍からポツダム宣言の受諾を迫られていた。時の鈴木内閣では決定できず、昭和天皇が出席する御前会議が繰り返され、宣言を受託して敗戦を決定する裏では、陸軍が中心となったクーデターが企てられていた。
1945年8月14日から15日にかけてのいわゆる宮城事件を題材にしたドキュメンタリータッチの作品で、1967年作品なので、当時の重鎮ともいえる名優たちも、当時は確かな中堅どころでその後名優に育っていくよく知っている俳優たちも目白押しなのだが、東宝は製作することの意義を重視したらしく、なるほど、すさまじいまでのオールスターキャストでありながら、顔見せとかゲストというような使われ方は徹頭徹尾してされてなく、戦時中の強烈な個性を持ったお偉方に各名優がなり切っている。
現代から見ると、一般人に犠牲が出ようが最後の最後まで本土決戦で戦うべきと主張してクーデターを起こした陸軍兵士の思想は単に暴論としか思えないが、1967年当時であれば、この終戦が良かったという人もいれば、陸軍兵のいうことも理解できるという人も少なくはなかったと思う。国家の思想というものは教育によっていくらでも変わりうることは現代でも某国を見れば明らかであり、日本にもそのような時代があったと客観的に感じることができるという意味で東宝の製作意義は十分に達成されているとともに、映画としての面白さも十二分に感じられ、この映画の立ち位置はかなり稀有なものと考えられる傑作。
2015年版は苦悩する天皇、阿南陸軍大臣の家族愛といった側面も描くことによってかえって散漫な内容になっていたが、本作は名優たちの厳粛な演技や、セルフのある女優はたった一人ということに代表されるような徹底したドキュメンタリー的な手法により、本作の軸である戦争終結の歴史的事実を描くことがぶれることなく、157分という上映時間に全く長さを感じない緊迫感を感じさせる。