「ダークナイト」 2008年米 評価4.5
監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、アーロン・エッカート他
2021年5月観賞
表向きは平穏なゴッサムシティは裏ではマフィアが牛耳り、組織犯罪が蔓延っていた。この状況をなんとかしようと正義感の強い地方検事ハービーが立ち上がったが、一方で悪の巣窟から生れ出た病的な精神を持つジョーカーが偏執狂的な犯罪を繰り返し、陰でゴッサムシティの秩序を守ろうとしているバットマンとハービーをつけ狙うことになる。
バッドマンシリーズの鑑賞は2作目。初鑑賞は次作の「ダークナイト・ライジング」で、そのいい加減で信憑性の低い設定と長ったらしい肉弾戦のために平均的評価だったが、本作はさすがに名作との噂に違わぬ出来。
主役とその周辺の人々のみを描くことが多いヒーロー作品にはほとんど観られない、人間社会の大衆性や暴力性などをかなり広範囲に描くとともに、それをうまくまとめているところが、普通のアメコミ、ヒーローものと全く異なるのだと思う。描いている世界観の中ではバッドマンもジョーカーも一つのアクセントでしかないのだが、その二人だけではなく、ゴードン警部補もウェイン産業の重鎮2名もハービー検事もそれぞれに出すぎるところなく重要な役どころを務めきり、全体像を描く中で非常にうまく作用している感。
本作で描かれるのは、善と悪の両面を持つ人間たちそのもの。誰もが両側面をもち、それを決めるのは自分の意志。前半は正義漢そのもののハービーは、それを知っているからこその両面表のコインなのだろう。良いと信じる道のみを進むことは困難であるというkの人間社会を表現している。ラスト、バットマンが去っていく時にゴードン警部が息子に語る「ダークナイト」のもつ意味が重くて残酷。ヒーローものでありながら人間というもの、社会というものの表裏両側面を描いた稀有な傑作だと思う。
さんざ評価されつくしているが、やはりジョーカーのヒース・レジャーの演技が素晴らしい。金に固執せず、自分が楽しむためだけに行動して一体何をしでかすかわからない狂者そのもので、よりバットマンとハービーの対極にある悪者として際立つことで、本作の物語の骨格を形作っている。