「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」 1935年日 評価4


監督:山中貞雄
出演:大河内傳次郎、喜代三、宗春太郎、沢村国太郎他

2021年4月観賞

 柳生家の次男・源三郎が婿入りの際に兄から譲渡された何の変哲もないこけ猿の壺。しかしその壺には百萬両の在処が塗り込められており、それを知った柳生家当主は、江戸に暮らす源三郎から何としても壺を取り戻すよう部下に厳命する。しかしただの壺と思った源三郎はそれをクズ屋に売り、クズ屋はそれを近所の子供にあげてしまっていた。

 丹下左膳といえば、片目の剣士ということぐらいはわかっていたが、それがこけ猿の壺にどう関わってくるのか最初は全く読めない。しかしあれよあれよと左膳が話の主軸に巻き込まれ、コメディ的要素もふんだんに、チャンバラの見せ場(戦後、GHQにより大分削除されたらしいが)もありつつ、最後にはきっちりとまとまって大団円?というストーリー展開が秀逸。

 古い映画だしセリフも聞き取りづらいのだが、正直ここまで笑えるとは思ってなかった。「する」「しない」の議論から画面が一転してのオチや、左膳と的屋のおかみ、お藤の他愛もないバカバカしい口喧嘩、印象的なセリフなどの諄いほどの繰り返しが、現代でいうところのドリフターズやダチョウ俱楽部のようなお約束のギャグという感じですんなり気持ちに浸透してくる。特にラストの主要出演者が揃った的屋の場面のオチは映画史に残るほどの見事さと可笑しさ!

 出演者の中では、お藤を演じた、鹿児島の売れっ子芸者から歌手になって当時絶大な人気を誇った喜代三が際立って素晴らしい。当時の大スター大河内傳次郎相手に全く臆することなくやり合うほど度胸が据わっているし、歌も本業だけあってとっても魅力的。それと印象的なのがクズ屋を演じた高勢実乗と鳥羽陽之助の「極楽コンビ」。「スター・ウォーズ」のC-3POとR2-D2が、「隠し砦の三悪人」の百姓コンビの太平と又七をモデルにしているのは有名な話だが、太平と又七は本作の「極楽コンビ」を参考にしているのではないかしら。特に、高勢とC-3POの佇まいはとても良く似ている。

 1935年の作品なので、どうしても映像の質、セットの軽量感、俳優への演出面の古さといったものを感じざるを得ないので、全世代を通じての評価では上限リミットができてしまってこの評点だが、当時の映画のみで横並びに評価すれば傑出していると思う(といっても1930年代の作品にも関わらず現存しているというのは名作ばかりだろうけど。。。)。