「ゆれる」 2006年日 評価4.5


監督:西川美和
出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、蟹江敬三、真木よう子他

2021年4月観賞

 東京でカメラマンとして一応独り立ちしている早川家の次男・猛は、母親の葬式のため、実家のある山梨県の片田舎に帰省する。実家には、父親のガソリンスタンドで働く独り身の長男・稔が実家のことも含め甲斐甲斐しく世話を焼いていた。葬式後、幼馴染で父のガソリンスタンドに勤めている美智子を家に送った猛は、軽い気持ちで美智子とそのまま体を重ねる。次の日、早川家の兄弟と美智子は三人で近所の渓谷に行くが、そこで事件が起こる。

 猛の軽い気持ちでとった行動が、幼馴染・美智子の鬱屈としていた生活の中の一つの光となって人生を変えるための意思を強くさせる。稔は猛が帰省したことをきっかけに美智子への告白をするつもりが、瞬時に真逆の展開になっていることを悟った焦りとなり、猛はいつも通りの軽率な行動が田舎暮らしの若い女性に何かを勘違いさせたことを鬱陶しく思う。このあたりの映像に現れない心の“揺れ”が芸達者の面々により浮き彫りにされる前半が何にもまして見応えがあるし、その後の、表面的に静かだった田舎町の人々の奥底に沈殿している人間模様を浮き彫りにしていく展開も見事。

 物語は法廷劇となっていくのだが、猛の心も供述も“揺れ”続け、それに伴い事件の真相究明の方向性も“揺れ”続ける進行が興味を継続させる。ラストは西川監督定番の観る者に考えさせる終わり方となるのだが、早川家の父親はボケが進行し、いくら猛が昔の兄弟関係を取り戻そうとしても、もう絶対に不可能なところに来てしまったことを、ラストの稔の、もう人生を悟ったかのような冷えた表情とその笑顔が語っていると私は感じた。

 西川監督作品は、人間の汚いところを本当に鋭く抉ってくるので観るのがつらいのだが、映画として、ストーリーとしていつも高水準で面白いことは否定しようがない。