「日本の悲劇」 1953年日 評価4
監督:木下恵介
出演:望月優子、桂木洋子、田浦正巳、上原謙他
2021年4月観賞
夫を戦争で亡くし、戦後は温泉旅館の女中や時には体も売りながら闇市で物資を調達して、娘と息子を女手一つで育て上げた春子。しかし、娘は好きでもない英語教室の教師と駆け落ち。苦労して医学生にまでした息子は大病院の夫婦からの養子縁組の話に乗る。子供たちを育てることだけが生きがいだった春子はなんとか子供たちと関係の継続を望むが。。。
春子の、今の時代では所謂「子離れできない母親」というべき諄いセリフが脳裏にまとわりついて離れない。今の時代なら人はそれぞれの人生があり、親も子供に頼るのではなく、自立させてそのうえで自分自身の人生を全うするというのが一般的な意識だと思うが、戦後当時は、春子の考えである、一生懸命育ててきたのだから子供は働きだしたら親を養うのが当然、というのが普通だったのだと思う。そしてそれは、本作の前半に頻繁に挿入されるニュース映像などを観るに、本当に死ぬ思いで、自分の身に降りかかることには歯をくいしばって耐えぬいてきた時代を鑑みれば当然とも理解でき、本作で描かれる人情を、今観てどう感じるべきなのかの判断は非常に難しい。
木下恵介と言えば「二十四の瞳」とか「喜びも悲しみも幾年月」といった、骨太でメロドラマチックな演出を思い浮かべるのだが、本作は徹底して写実的で現実的な内容となっている。現代の視点では母親は考えを改めるべきと考える人が多いと思うが、当時の視点では、「日本の悲劇」という題名にしたのには、親を大切にしない時代が到来しつつあるということに対する危機感の意味合いが強いのだと思う。
ともかくも、映画としては甘いところは一切排除し、緊迫感もありながらも人間の描き方も丁寧で、全く緩みのない高品質な出来である。