「ドクトル・ジバコ」 65年英・米・伊 評価4.6(5点満点) メジャー度4
監督:デヴィッド・リーン
出演:オマー・シャリフ、ジュリー・クリスティ、アレック・ギネス他
2000年、2025年2月鑑賞
「アラビアのロレンス」から3年。油の乗りきっていたデイヴィット・リーンがノーベル文学賞を受賞したソ連の詩人の同名小説を3時間17分という壮大な抒情詩にまとめあげた,有名な「ララのテーマ」とともに記憶される紛れもない名作。
ロシアで幼くして両親を亡くした後、裕福な親戚に引き取られて医師となり,詩人でもあった青年の、第一次大戦からロシア革命後までの時代に翻弄される生き様を描いた、ロシア版「風と共に去りぬ」のような内容。話は,ロシア革命後、軍の重要な地位についていた主人公の腹違いの兄が回想する形で進んで行く。義父母の下,立派な青年に育ったユーリ・ジバコは義父母の娘と結婚し,第一次大戦に従事。しかし,その後のロシア革命により階級が廃止され,それまでの生活を変えざるを得なくなる。なんの罪もなくてもかつての階級により白い目で見られ,地方ではパルチザンに捕らえられ医師として働くよう拘束される。誰が悪いわけでもない時代の流れの中で翻弄される青年の人生を,運命的な女性との出会いと別れ,家族との別離を絡めて描き出している。
これこそ映画である。壮大で美しい映像,音楽,練りこまれた脚本。同じ大作でもハリウッドの巨大ポップコーン的な内容とは大きく異なる。D・リーンの映画は大作揃いだが決して大味になることなく、全編にわたり精神の緊迫を持つことを観客に要求する。それに耐えるというより、自然に引き込まれてこそ,しみじみと,いつまでも心に残る感動を得られるのだ。最近は大作でも頭の疲れないもののほうが楽だが,それでは良い映画は見れないよ、ということを改めて認識させられた。
2025年の再鑑賞で気づかされるのは、戦争で翻弄される個人個人の哀しみを描きつくしている点。今や世界中で紛争が起こっているからこそ、この哀しみををつくづくと感じる。ユーリは愛する妻子がいながらララと不倫の関係にあり、その表面だけを捉えると今どきのメロドラマチックな設定だが、同じ戦時下の病院で信頼し合いながら働いた間柄であるからこそ、それが不倫であっても、傍目からは理解しがたいが決して攻めることのできない、生真面目で人としても優しさに溢れるユーリの精神的な揺らぎを許容したくもなる。