「レディ・バード」 2017年米 評価4
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ他
2021年3月観賞
カリフォルニア州サクラメントのカトリック系の高校に通う3年生のクリスティンは、自らを「レディ・バード」と呼び、アメリカ東部の大学に行くことを密かに企んでいるが、父が失業し、兄も大学を出たもののバイトしか見つからない家庭は、母親の仕事で得た収入だけなので火の車。クリスティンの遠方の大学費用をねん出する余裕はなく、母はついつい娘の行動に口うるさくなり、娘は母親を疎むようになっていく。
金持ちのグループに属したいとかカッコいい彼氏と付き合いたいという、他人からの視線を意識した背伸びをしたがるという、中高生の頃のごく平凡な欲求を持ち、一方で根は真面目で我が強い「レディ・バート」の青年時代の心の葛藤が非常に生々しく、ノスタルジーも感じられる「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」のガーウィング&ローナン(&シャラメ)の佳作。
羨望や夢は、それに向かって他のものを犠牲にしてまで頑張っていると自分自身が正直に言い切れる人のみに実現できるものである。平凡な「レディ・バード」は憧れに向かっての舵は切れたものの、ラストで、自分は「レディ・バード」ではなく、「クリスティン・マクファーソン」でしかないことを痛切に感じることになる。現実的な痛みを伴うものの、その代わりに自分が何を大切にしなければならないか、何を感じて生きていかなければいけないか、ということを悟ることで、平凡な人間としても心の豊かさを持つことができるということを感じさせるラストが、とても清々しい。
内容的に、人生に教訓を与えるとか深く感動するというものにはならないものの、このジャンルの映画としては最良の部類に入る作品で、女性の方が(特に現実に向き合う勇気を持つ人には)共感やノスタルジーを感じることができると思う。
「ストーリー・オブ~」でファンになったローナンはさすがの演技力。特に大学生活の初っ端に酔いつぶれて病院に運ばれた翌日朝の一瞬の場面が、人生の分岐点に潜む色々な景色を感じとった表情になっていて秀逸。元々、舞台も精力的にこなす女優で、よもや典型的なハリウッドスターになるとも思えず、これからも期待を裏切らない俳優でいて欲しい。