「プラトーン」 1986年米 評価5
監督:オリバー・ストーン
出演:チャーリー・シーン、トム・ベレンジャー、ウィレム・デフォー他
1987年、2021年2月観賞
1967年。低所得層や有色人種ばかりが派遣されているベトナム戦争の在り方に疑問を持ったテイラーは大学を中退しベトナム兵役を志願。前線地であるカンボジア国境付近に派遣される。しかし鬱蒼とした密林の中での戦争の過酷さは想像以上のものであり、そこには北ベトナムという敵のみならず、同じ小隊(プラトーン)の中にも軋轢が生じていた。
派手な銃撃戦も、兵士の活躍場面もほとんどない。描かれるのは、主人公テイラー自身と彼の目を通した現場の兵士の実状。それを淡々と描くことで、劣悪な環境の中で正気をもって生きるには何かに身を委ねるしかないという事実が炙り出される(逆にアクション目当てだと肩透かしを食う映画)。
もちろん、監督オリバー・ストーンの1年間のベトナム戦争体験を基にした戦場シーンの緊迫感は、ドンパチが少ないながらも強烈なのだが、片や、戦場においても人間性を失わずにいたいという反面、マリファナで一時の快楽を得るグループ、片や、兵士志願者が低所得層が多いという背景もあって、戦場でないと生きる喜びを得られず、その場こそ自分が生かせる場と感じ、その狂気に身を投じているグループが、鬱屈した戦場では同じ味方同士でありながら、反目が出来上がるという人間社会の醜さや不条理が描き出される。単に戦争の善し悪しではなく、これを描いたのが本作の特徴であり、凄さである。
唯一のドラマと言えるバーンズ軍曹とエリアス軍曹の確執は悲惨な結末を迎えるのだが、この二人を演じたトム・ベレンジャーとウィレム・デフォーの演技が素晴らしく(本作で二人は同時にアカデミー助演男優賞にノミネート)、また、効果的に繰り返し使われる、美しい旋律を持つ「アダージョ」が、エリアスのラストシーンと共に、二人のやるせない結末を決定的に忘れられないものとする。
ベトナム戦争を題材にした映画は1980年代後半に、それこそ雨後の筍のように制作されたが、その先駆けとなったのが今作。戦場の残酷さ、悲惨さを前面に出す映画が多い中、人間の本質を鋭くえぐった本作は、やはりダントツの出来だと思う。少々の減点は、やはりチャーリー・シーンが浮いているところ。
なお、若かりし頃のフォレスト・ウィティカーとジョニー・デップ(通訳役)が出演していることを今回認識できて、ちょっとしたうれしい発見。
初鑑賞時は映画館。この映画の持つインパクトと映画としての出来栄えに圧倒され、席を立たず2回連続で観た(当時は今のように入れ替え制でないため、これが可能だった)のも懐かしい思い出。また、1960年代の名曲をちりばめたサントラ盤も名盤だった。