「どですかでん」 70年日  評価4(5点満点) メジャー度2

監督:黒澤明
出演:頭師佳孝、判淳三郎、井川比佐志他

 埋立地(またはゴミ捨て場か)に住む複数の下級層家族のそれぞれの生き方を描いた、黒澤初のカラー映画。

 電車馬鹿の知能遅れの息子を持つ母子家庭、浮浪者の親子、訳ありで世捨て人のような生活を送る男、夫婦交換をする日雇い労働者の2組の夫婦等、8つの家庭を通して、人間の弱さ、人は生きるためにどれほど苦労しているのかを優しいまなざしで描いている。ゴミ溜めのような場所でなぜ生きているのか、そんなところで生きていくためにどんな楽しみを見出すのか、弱い男、虚栄を張る男。人間という複雑な精神を持つ生き物は本人以外誰も理解できるわけはないのだが、それを肯定するでも否定するでもなくただ、人間の生きていく姿を描くことで、見るものに何かを考えさせる。考えさせられることは人によっていろいろだろうが、私は、よく人はこのような世界の中で精神に異常をきたさず(またはきたさない振りをして)生きているものだということと、人はどうとでも生きていけるという事を感じた。

 初のカラーということで、今後の黒澤映画に見られる、色彩を駆使した度が過ぎた映像美へのこだわりが感じられるが、まだ鼻につくほどではない。内容も前半はテンポがゆるいし、いまいちかなと思ったが、後半に向けての伏線として生きていると考えればそれも納得。黒澤映画には珍しく優しい音楽を使っており、これがなかなか効果的で、暗い内容でありながら、最後はなんとなくほのぼのとしたものを感じてしまう。

 この後、ソ連資本で作った「デルス・ウザーラ」までが、黒澤の本来の映画であると結論付けたい。