「燃ゆる女の肖像」 2019年仏 評価4


監督:セリーヌ・シアマ
出演:ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ他

2020年12月観賞

 劇中の流行絵画を見ると時は1800年あたり。画家のマリアンヌはフランスのブルゴーニュ地方の島の屋敷に住む年頃の娘エロイーズの肖像画を描くことを彼女の母親から依頼される。しかし、前任の画家に描かせなかったというエロイーズはなかなかマリアンヌに心を開いてくれない。

 姉が自殺し、自身も結婚に不安を感じている処女エロイーズと画家であるマリアンヌの、美しくも冷徹な風景の中で心を開いていく様が丁寧に描かれる。一方で授かった命を堕胎する若いメイドの場面も対比的に描くことによって、当時の女性の立ち位置をも観客に感じさせるというよく練られた脚本である。また、個人的には絵を仕上げていく過程が興味深かった。

 初めは打ち解け合えない二人が、突然感情が抑えきれなくなっていく様を通じて描かれるのは、エロイーズにとってはまさにそのもの、マリアンヌにとっては女性相手としては初めての初恋であり、そしてそれは女性は家にいるべきという観念と、特に女性同士の同性愛など認められるはずもなかった時代背景があるからこそ激しく燃え上がり、そして終焉を迎える。

 エロイーズのドレスに火がついてまさに「燃ゆる女」になる場面など、印象的な映像が多く、ラストの、マリアンヌが劇場で数年ぶりにエロイーズを発見した後の延々とエロイーズの表情を映す場面が強烈だ。マリアンヌの「彼女は私を見なかった」という独白から、多分、二人は劇場でお互いにそこにいることを認識したのに、エロイーズは敢えてマリアンヌを見なかったのだと解釈する。結婚し子供も儲けたエロイーズは過去の思い出に号泣するものの最後には吹っ切れたような表情になるところに女の強さを見た。

 18世紀という時代設定の割には建物や備品に年代性を感じないところがあるが、決して素晴らしい美貌とはいえない三人の女性を中心にして表現したことは、18世紀の禁断の愛というよりも、どの時代にも等しく存在する初恋の激しさや脆さを描いた作品なのだろうと思う。