「チェンジリング」 2008年米 評価4.5


監督:クリント・イーストウッド
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン他

2020年11月観賞

 1928年ロサンゼルス。シングルマザーのクリスティンは、9歳の一人息子ウォルターを家において仕事に出かけるが、戻ると息子は行方不明になっていた。警察に届け出るがウォルターは見つからないまま5か月が経ったある日、警察から、遠く離れたイリノイ州でウォルターを見つけたとの連絡が入る。奇跡の結果に歓喜するクリスティンだったが、駅で迎えたウォルターは全くの別人だった。しかし、世間的にも美談として報道されていたこの結末を受け入れることを、警察はクリスティンに強要する。

 冒頭から、今では信じられないような腐敗した警察による市民への弾圧ぶりがスピーディに描かれる。9年間育てた息子を母親がわからなくなることなんかあり得ないのに、警察は被害者であった母親の言うことなんか聞きやしない。挙句には精神病院にまで押し込んで、どうなってしまうのだろうとハラハラしっぱなし。それが前半で、その後、事件の真相が解明されていく過程、警察の腐敗の糾明、実際のウォルター少年はどうなったのか?という複数の興味深いストーリーが並行して進んでいくので、全く息つく暇もないような緊迫感がずっと保たれる。

 その緊迫感の継続を後押しするのは、アンジーの演技。この境遇なら発狂しっぱなしでもよかったものの、目力を駆使した抑えた演技を一貫して通し、どうしようもない時だけ爆発させるというメリハリのつけ方も素晴らしく、これでアカデミー主演女優賞がノミネートで終わったのが不思議なくらい。また、全く気付かなかったジョン・マルコビッチを始めとした、地味だが確かな俳優陣(特にふてぶてしいジョーンズ警部役の人が秀逸)がわきを固めているのも良い。

 あまりに衝撃的な内容だったので、本件のベースであるゴードン・ノースコット事件を鑑賞後によくよく調べると、結構脚色されていること(ウォルターが偽だった元凶はなりすましたハッチンズ少年の陰謀の部分が大きい。5年後に殺人犯から逃げ出した少年が生きて見つかったという事実はない、など)がわかったが、もともと本作はドキュメントではないのだから、事実と異なること自体は評価に影響させない。イーストウッドも「実話」と冒頭にクレジットすることは避けたかったらしいし。

 冒頭で、クリスティンの態度があまり息子を愛しているようには見えなかった点と、なぜシングルマザーなのに不自由のない暮らしぶりなのか、というところはちょっと気になったが、その点を差し引いてもなかなかの傑作といえる作品だと思う。