「レスラー」 2008年米・仏 評価4


監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ミッキー・ローク、マリサ・トメイ他

2020年10月観賞

 20年前は人気プロレスラーだったランディ。今は一人、場末の賃貸物件に住み、平日にスーパーマーケットでバイトをしながら週末に地方のプロレス興行に参戦する日々。しかし長年の無理が祟って心臓麻痺で入院し心臓のバイパス手術を受ける。レスラーとしての生活をあきらめたランディだったが、一人娘には邪険にされ、懇意にしていたシングルマザーのポールダンサーにも振られて、通常世界での生きる気力を失っていく。

 かつては「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」や「ナイン・ハーフ」で優男風情のセックスシンボルとして名を馳せたミッキー・ロークは、その後猫パンチプロボクサーとして活動した期間もあるほどの格闘技好きで、また、少なくとも私の知る限り2006年の「シンシティ」のころには、顔も浮腫んで明らかにステロイド投与のマッチョになっていて、本作のために役作りをしたというわけではないのだろうが、その外観や生きざまが本作のランディにピッタリマッチしていてはまり役。それより驚いたのが、中堅どころの女優として出演作も多いマリサ・トメイが、40歳を超えながら裸体を惜しげもなく披露し、ポールダンサーを演じきっていることにビックリ。しかも体は締まり素晴らしいプロポーション。役者魂という面では彼女の方を称賛したい(実際、アカデミー、ゴールデングローブ賞双方で助演女優賞候補になった)。

 私は、ファンク兄弟、ブロディ&スヌーカの野獣コンビ、不沈艦スタン・ハンセン、ブッチャー、タイガー・ジェット・シンに馬場&鶴田といった個性的な名レスラーが揃っていた1980年前後の全日プロレスが大好きだった。プロレスはショーであり、ショーだからこその面白さがあるべきと思っていたので、本作の主人公ランディ全盛期の頃の古き良き時代が懐かしく、一方で金網マッチなどとにかく残虐になっていったプロレス界には興味を失っていたため、そんな戦いもしなければならなかったランディを痛々しく感じてしまう。普通の生活の中ではうまく過ごせず、自分の生きる世界はリングの中と悟って、そこで人生を閉じようというストーリーの大枠は「あしたのジョー」に似ているが、主人公を愛する人が結局一人もいないという、救われない内容であるところが非常につらいのであるが、映画としての出来は良い。

 ただ、全盛期にはかなり稼いでいたはずで、しかも同僚には愛され、後輩には崇拝され、人間的にも穏やかで優しいところもあるランディがなぜ、貧乏暮らしになって、離婚して一人暮らしの娘に毛嫌いされているのかが描かれないので、ランディという一個体としていまいち統一感が希薄なところが減点。ここを丁寧に描いていればもう少し点数は上がったと思う。