「デッド・ゾーン」 1983年米・加 評価4.5
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:クリストファー・ウォーケン、ブルック・アダムス、マーティン・シーン他
1988年、2020年9月観賞
高校教師のジョニーは結婚を誓った恋人サラとのデート後の帰り道での自動車事故で5年間こん睡状態で眠り続け、その後目覚めたものの、サラは既に結婚し、子供も儲けていた。ショックを受けたジョニーだが、ある日看護師の腕を握った際に、彼女の家が火事となり娘が閉じ込められている幻影を見る。その後にも主治医の過去や殺人事件の被害者に接触した際に犯人の幻影を見るなど、自分が特殊能力を持ったことに気づく。一方、彼の頭痛の頻度は上がり、体はますます衰弱していたが、ある日、上院議員候補のグレッグと握手した際、彼が将来アメリカ大統領になり、核爆弾発射のボタンを押す映像を見る。
実質的に本編は95分ほどと短く、現在の映画ではお約束の、映像的に凝ったところやストーリーテリング上での時系列をいじったりの工夫などは全くないため、クローネンバーグ監督作品としては珍しく、物語はサクサクと、あまり起伏なく進むと言ってよい。また、ミステリーの謎解きというところもないため、観るたびに何かを発見するということもないので、32年ぶりとは言え今回の鑑賞で物足りないという印象をうけてしまうことは致し方ないともいえる。
しかし学生時代に観た時の評価は5である。本作は昏睡状態により5年間という空白の時間を作ってしまったことにより恋人を失い、特殊能力を持ってしまったことで好奇の目で周りからみられるようになった男の哀しみを描いた、サスペンスというよりSFラブストーリーというべき作品だ。一夜明けたら恋人は他の男と結婚して子供がおり、特殊能力を持って初めは現代、そのあとは過去、ついには未来を見ることができるようになるがその能力の増幅に伴い自らの死期が近づいている。それを悟ったジョニーのラストの行動の正当性は自身だけにしかわからないし、誰にも理解されない。その寂しさが薄幸の役をやらせると抜群のクリストファー・ウォーケンが絶妙に表現し、ヒロイン役のブルック・アダムスも個性的な可愛さで結構好みだった(いちおう、過去形ね)ことも激しく琴線に触れたのだと思う。一方で自分自身少し寂しいのは、学生時代のほうが表面上の刺激や映画的な技巧に惑わされずに、映画の本質を深く理解できていたのではないかという点。ここはこれから映画を観る際に気をつけたいと思う。本作はそのストーリー内容からも、1回目鑑賞時の評価を重視すべきだと判断しての評点としたい。
全くの蛇足ですが、片杖をついた正義感あふれる男の動きは、「ウルトラマンレオ」における、ウルトラセブンであるモロボシ・ダン隊長と重なるものを感じました。