「湯を沸かすほどの熱い愛」 2016年日 評価4

監督:中野量太
出演:宮沢りえ、杉咲花、伊東蒼、オダギリジョー他

2020年9月観賞

 1年前に夫が蒸発。それとともに営んでいた銭湯を畳んでパン屋で働いている双葉。彼女には高校1年の娘がいるが学校でいじめを受けている。そんな状況でも強く生きる双葉だったが、ある日、仕事中に貧血で倒れ、検査の結果末期がんを宣告される。

 まず指摘せざるを得ないのはバランスの悪さ。宮沢りえと夫の連れ子である二人の娘の演技が素晴らしすぎて、かえってそれ以外の役者(特に私立探偵とヒッチハイカー)との力量の均等が取れない。また、宮沢りえ演じる癌宣告を受けた母親、双葉の考え方と生き方は丁寧に描かれるものの、それ以外はかなり雑で、私立探偵は「あの人のために何かしたくなるという人」と双葉を評するが、彼は母親を亡くした娘が優しくしてもらっただけだし、結構双葉がエキセントリックなところもあって、彼の言うような人物として描かれているとはいえず、説得性がない。あと、しっかりしている双葉がふらふらしている夫のどこに魅かれて結婚したのかがさっぱりわからない。同じ優柔不断な男を描いた成瀬の「浮雲」と比べるのも失礼だが、演出とセリフの練り込みが全く足りない。ラストの、双葉の遺体を焼いて銭湯の湯を沸かすというのもやりすぎ。遺骨ならともかく、関係者数人で、生の遺体を銭湯の炉に押し込んで燃やすという過程を想像するに、やはりその展開は無理すぎて、さらにはそれで沸いた風呂に笑顔で浸かってられるのか?と一気に非現実的になるのもいただけない。

 と、全体的にかなりバランスの悪い作品なのだが、平均以上の評価になるのは、まずは上述の3人の演技がとても良いため(泣かせようというくどい見せ方が少し多いが)。特に高校生の娘を演じた杉咲花が秀逸。段々と双葉のやってきたことが回収される展開も良い。それと一番は、世の中だけでなく家庭内であっても、その人間の将来のことを考えずに、今現在の居心地を考えて慮った接し方が推奨される現代にあって、双葉の、「人生に立ち向かえ」「今ダメだったらそのままだ」という強い意思表示に対し、今の、凹んだら無理しなくていいとか自分は自分だからという、自分を向上する方向に進ませようとしない世の中の風潮に疑問を感じる私は強く共感できるため。