「メメント」 2000年米 評価4
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス、ジョー・パントリアーノ他
2020年9月観賞
レナードは、自宅で妻が殺され、その後後頭部を殴られたことにより前向性健忘(記憶が数分程度しか持続しない)となってしまっていた。犯人に復讐するため、得られた情報を忘れないよう、メモを取り、重要なことは体に彫りつつ、ついに犯人を追い詰め殺害するのだが。。。今の時点から始まりへと時系列を逆にしてストーリーは展開する。
時系列を逆にしているのでかなり難解な内容で、その形式により、一種の謎解きのような精神集中を強要する映画。なぜレナードはブカブカの服を着ているのか、車のサイドガラスが割れているのか、なぜドッドに追われているのか(追跡の最中に自分が追っているのか追われているのかわからなくなるところが笑える)などの疑問が徐々に解かれていくストーリー展開はとても興味深いし、演出も映像も緊迫感に溢れており、金はかかってなくても良質な映画である。
結局、体に彫られた刺青すべての、その経緯が描かれるわけではないので、レナードがどのようなに復讐のための行動をしてきたかの全貌は把握できない。また、自分が頭を殴られた以前の記憶がどの程度正確かというのも客観的に描かれることがないため、ストーリーとして何が正解かというのは誰にも判断できない。あくまで観客ひとりひとりの思い込みでしかなく、だからあまり観終わってからストーリーを完全に把握しようとしなくていい映画だと思うし、ストーリーの謎解きというよりも、数分程度しか記憶が続かない人間の精神と行動の不安定さというものがこの映画の描き方によって見事に表現されているという点に、私は本作の良さがあると思う。
ただ、1回観てほとんど内容を理解できないという映画は、どんなに映像が素晴らしいとか芸術性に優れていても娯楽としてダメだろう(例えば「去年、マリエンバードで」とか「ユリシーズの瞳」とか)というのが私の信条でもあり、本作はそこまで難解ではないが、あまり人に勧めたいとは思わない。