「ダイヤルMを廻せ!」 1954年米 評価4.5

監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:レイ・ミランド、グレース・ケリー、ロバート・カミングス他

1984年、2020年8月観賞

 かつて有数のテニスプレーヤーだったトニーは資産家のマーガレット(マーゴ)と結婚しているが、試合のため妻を顧みない奔放な生活を送っている間に、マーゴは推理小説家であるマークと不倫。年を重ね試合に出なくなったトニーは、不倫しているマーゴを殺害しての資産相続を企み、かつての学友にマーゴ殺害を依頼する。

 70年近くも昔の作品なので、ダイヤル式の電話や、故障や遅れることは日常茶飯事の腕時計、今でいうオートロック形式の玄関扉といった当時の生活様式にある程度理解が追い付いていかないと、面白さが漸減する内容だと思う。

 そのあたりの理解は自然と身についている年齢の私からは、本作の内容に少し違和感(もっと警察は事件当時にきちんと捜査できなかったのか?有罪確定後半年で死刑執行?)はあるものの、スピーディな密室ミステリーは非常によくできていて、36年ぶりの2回目の観賞とはいえ(ラストは忘れていたが)、ずっとストーリーに引き込まれっぱなし。ミステリー部分だけでなく、トニー視点では、急きょ起こったアクシデントにより、妻を犯人に仕立て上げようとしている一方、妻はトニーが何とか自分が被害者であると警察に納得させようとしていると信じているという、相反してすれ違う心理状態をも映像に織り込んでいるところも凄いところ。

 さらに、全てを観終わった後には、人物像や背景も実はしっかり掘り込まれていることも判明する(事件の1年ほど前からトニーが試合行脚を控えてマーゴに優しくなったのは、妻が浮気し、自分と別れようとしていることを知り、長期的な殺害の計画を立てていたため。そんな優しくなった夫への愛がよみがえってきたマーゴは不倫をやめようと思っているという状況、心理の土台がある)。そういった背景も理解したうえでもう一度観るとまた一段と面白いだろうと思わせるほどの、さすがはノリにノっていたころのヒッチコックの名作。

 それにしても、グレース・ケリーはどんな役でも品格が滲み出てしまう。本作は「裏窓」ほどは魅力的ではないけども、稀有な女優だったのだなぁと再認識。