「男はつらいよ」 1969年日 評価4 メジャー度5
監督:山田洋次
出演:渥美清、光本幸子、倍賞千恵子、前田吟他
主演の渥美清存命中に48作まで製作された、日本人なら誰でも知っているシリーズの最初の作品。葛飾柴又に20年ぶりに帰ってきた破天荒な車寅次郎が妹の住む団子屋に居候して、近所の寺の娘に恋して振られてまた旅に出るという内容で、この後、全作に踏襲される展開が、すでに1作目から確立している。
私はこれまで正式には11作分観ているが、すべて10代の時の観賞。それ以外に、バス旅行(定かではないが、バス旅行なんてそんなにないので、修学旅行やスキーバスツアーの際だと思われる)における車内TVの定番がこの「男はつらいよ」シリーズだった。本作は記録に残っていないので、初めてかと思っていたが、記憶に残っているシーンがあったので多分初見ではないのだろう。
1作目ではシリーズ化は決定していなかったということだが、渥美清の江戸っ子言葉での乱射はすでに堂に入ったもので、登場人物の役割もきっちり割り振られていて、今後48作も続く最初の作品とは思えない完成度である。
30年ぶりに改めて本シリーズ作を観たのだが、寅次郎のカウンターパートとしての妹・櫻の存在が極めて重要であることに気づく。お人形のように可憐な容貌とは裏腹にしっかり者で、唯一、常に愛情をもって兄を諫め、接している櫻を演じる倍賞千恵子もこれまたはまり役。自分の親戚に居たらとても困った存在である、やりたい放題の寅次郎だけでは話としては到底成り立たなかっただろう。
本作の特徴的なところでは、マドンナとなった御前様の娘が寅次郎の幼馴染という設定なので、寅次郎とマドンナとの淡い恋が、シリーズ中(既観の11作の中でだが)もっとも自然でほほえましい。また、櫻の夫となる博の父親役としてゲスト出演した志村喬が、セリフが1分ぐらいしかないのに、痺れるほどの驚愕の存在感。さすがの名優っぷりを魅せつける。
1作目から完成度が高く、他のシリーズ作と大枠のストーリーはほぼ一緒なので、話としては目新しさはないが、やはりこの純日本人的な顔立ち、生活感、人情が醸す雰囲気によって、すごく安心感をもって鑑賞できる。シリーズ全作品を観ようとは思わないが、評価の高い作品は観ていこうかなと思っている。