「イエスタデイ」 2019年英 評価4 メジャー度2


監督:ダニー・ボイル
出演:ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、エド・シーラン他


 地球全体が12秒間の停電となり、復旧したものの、その世界はコカコーラやタバコ、ハリー・ポッターシリーズなどのデータが全く失われていた。その失われたものの一つにビートルズがあった。しかし、ちょうどその12秒の間、交通事故で意識を失っていた売れないミュージシャン、ジャックの頭はリセットされておらず、彼だけがビートルズの楽曲を知っているただ一人(実際は3人のうちの一人)となっていた。ビートルズの楽曲を演奏するジャックは瞬く間に世界規模のビッグ・スターとなる。

 地球というコンピューターにバグが発生し、復旧したもののいくつかのデータが失われた状態となった、というのが分かりやすい比喩か。なんとなくそのチープな設定や。今更ながらビートルズの楽曲を使用するというストーリーにあまり魅かれるものは感じなかったのだが、なかなか(特にビートルズを知っている世代に)評判がいいようなので、観てみた次第。

 正直、幼馴染のマネージャー兼運転手の女性との恋愛やスターへの道程などはありふれていて、何の変哲もないストーリーだ。しかし、本作を愛すべき作品としているのは紛れもなくビートルズ愛に溢れているからである。ビートルズの曲がふんだんに使われ、「イエスタデイ」「バック・イン・ザ・U.S.S.R」「ヘルプ!」「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」「愛こそはすべて」「オブラディ・オブラダ」などなどの名曲が非常に効果的に使われている。また、登場人物に悪人が登場せず、全体の流れが、ビートルズの曲を知っていたことの幸せを謳っていることもこの作品の魅力になっている。この映画を見ると改めてビートルズがとてつもないバンドであったこと、その曲を知ることができた人生を生きたことにしみじみと幸せを感じてしまう。

 また、新たにエド・シーランという今非常に売れているアーティストを知ることができたことが予想外の収穫。彼は本人役で登場しているのだが、とても自然な演技で、なかなかの芸達者。それに劇中で自身とジャックで即興でどっちが良い曲を書けるかの勝負をするのだが、彼は自身の曲を披露し、ジャックが「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」を弾き語り、勝敗の発表前に「君はモーツァルト、僕はサリエリだ」と清く敗北を認める。いくら劇中だとしても、こんなビッグ・アーティストにそれを言わせられたということは、エド自身がビートルズを崇拝しているからにほかならないだろう。そんな彼の楽曲も聴いてみようと思っている。