「ロケットマン」 2019年英、米 評価3 メジャー度3
監督:デクスター・フレッチャー
出演:タロン・エガートン、ジェイミー・ベル他
ビルボード誌において、アルバム初登場No.1を2作(史上初含む。80年代以前は、確か、スティーヴィー・ワンダーとホイットニー・ヒューストンがそれぞれ1枚の計4作しか成し遂げていない)、アルバム7作連続1位、20年以上連続でチャート40位以内のシングルを輩出。世界で最も売れたシングル、世界で第5位のレコードセールスの記録保持者など、間違いなく70年代最高のスーパースターであり、記録面でも凄まじいアクションを記録している、まさにロック界のスーパースターで重鎮であるエルトン・ジョンの、幼少期から、アルコール、麻薬中毒から更生する1992年までを描いた、エルトンの楽曲がちりばめられた、実質的に「ボヘミアン・ラプソディ」(以下、「ボラプ」)を監督したフレッチャーが監督したミュージカル映画。
監督が一緒だし、イギリス出身のロック界のスーパースターを描いたという点でクイーンの伝記映画「ボラプ」とどうしても比較されがちだが、「ボラプ」がクイーンの音楽に焦点が当たっているのに対し、本作はエルトンという人物を中心にしているため、作品としての印象はだいぶ違い、二番煎じということはない。映画という観点では本作のほうが深みはあるが、主人公の音楽の魅力を伝えるという点では圧倒的に前者のほうが魅力的だ。
その理由は、「ボラプ」がほぼクイーン本人の音源を使っているのに対し、本作はミュージカル仕立てにしていることもあってほぼエガートンの歌声だし伴奏も全く違う。エガートンの声はエルトンとは全く違うかすれたハイトーンで、シンガーとしても優秀なエルトンの魅力を伝えられていない。また、基本、エルトン本人視線でのライヴシーン描写であり、エンタテイナーとしても超一流だった点が肝心のライヴシーンからは感じられない。そのため、私としては、エルトンの曲、ライヴ・パフォーマンス、演奏家、シンガーとしての魅力、バーニー・トウピンの歌詞の素晴らしさを、特に日本人に少しでもわかってもらえたら、と感じているので、その点が非常に残念だ。
コアとなるバンドメンバーとの関係とか、バーニー以外のその他関係者とのいろいろあった経緯などはほぼ省かれていて、やや拙速に歴史をなぞった感じが強く、エルトンがどれほど偉大な功績を残したかがわかりづらい。映画として悪くないとは思うが、エルトンを熟知している私としては内容に目新しさはないし、エルトンの魅力を観客に感じさせられていないという、映画批評とは違うところがどうしても鑑賞中も気になってしまい、冷静な評価ができない。
ディープなエルトンファンとしては、主演のエガートンが、エルトンの友人というだけあって、表情の作り方も本人に似ているし、特に頭髪が薄くなってきた以降、本当によく演じていると思う。あと、幼少期の写真も、奇抜な衣装もこれまで目にした記憶があるので、あぁあれね、と気づくし、キキ・ディーとの「恋のデュエット」の録音シーンはそのまま実在の物にそっくり。最後の「I’m
still standing」(実はこの曲はまだ中毒が治っていない1982年の作品)は実際のミュージックビデオを使用し、エルトンの部分のみエガートンに変えるというこだわりも感じ、にやりとしてしまう。