「COLD WAR あの歌、2つの心」 2018年ポーランド、仏、英 評価4 メジャー度1


監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
出演:ヨアンナ・クーリグ、トマシュ・コット他


 1950年、第二次世界大戦後の荒れ果てたポーランドに創設された音楽舞踏学校の教師でピアニストのヴィクトルは歌手志望の蠱惑的な女性ズーラと出会い、二人は愛し合うようになる。ヴィクトルは自由を求めズーラと西側の国への逃亡を図るが、結局西へ亡命したのはヴィクトルのみ。しかし二人は舞踏団の西側遠征の際などに逢瀬を重ね、ついにズーラも政略的な結婚で、パリへと亡命する。お互いに恋人がいる中でも、また結婚をしてもお互いを愛し合う気持ちに衰えはなく、ついに、ポーランドに戻ったズーラを追ってヴィクトルもポーランドに戻ることを決心する。

 10年間の男女の生活感を超越した愛の物語。普通の感覚を超えたところでお互いを求めあう、言葉や理屈では語れない愛の姿をモノクロ、4:3の画面で描いた芸術的作品。

 約90分という短さで、しかも物語は物切れで次の場面に飛ぶので、観客は考えながら見ないと追いつけない。とはいえ、二人の会話をよく聞いていればストーリーはほぼ把握することができ、また、ポーランドの民族音楽からクラシック、ジャズ、ロックと様々な音楽に載せての詩やリズムが物語を側面からフォローし、変に揺れることのない映像も小細工なしの真正面からの芸術性を感じさせる。

 しかし、物語の内容からはどうしても成瀬巳喜男の「浮雲」を連想せずにはいられない。二人の中に他に守るものはないほどの言葉で尽くせぬ男女の関係。「浮雲」ではお互いのセリフのやり取りで心の襞まで描き出し、本作ではその役割を音楽に担わせ、お互いに個性を発揮していて両作品ともいい作品だが、日本人である分、また1955年の作品で先駆的であったことからも「浮雲」のほうが素晴らしく感じてはしまう。