「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」 1985年スウェーデン 評価5 メジャー度1
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:アントン・グランセリウス、メリンダ・キンナマン、アンキ・リデン他
1950年代末(イングマル・ヨハンソンがフロイド・パターソンを破りボクシングヘビー級世界王者になったラジオ音声がラストシーンに流れるので判明)のスウェーデン。兄エリク(中学生くらい)と結核を患う母の母子家庭で暮らすイングマル(小学校高学年)は、母の病状悪化のため田舎のガラス加工工場に勤める叔父の家に一人預けられる。家族と離れて暮らすイングマルは叔父の庭の東屋で、これまでの人生と想い出を回想し、「僕はロケットに乗せられて人間の実験台となったライカ犬よりましだ」と考える。
ストーリーは何の変哲もない。東屋の中で思う思い出は、母親と笑いあったり、兄弟ともども母親に怒られたり、飼い犬とベッドの下に隠れたりといった何の脈略もない断片的なもの。また、イングマル自身は一人で田舎にやられるが、いじめられるわけでもなく、なぜか女の子にはもてるし、周りも変わり者だが悪い人たちではない環境で、劣悪なものでもなく、淡々と話は進むといった感じ。
しかし、イングマルと男勝りの美少女サガ(およびその他の子役たち。いつも北欧映画の子役たちの上手さには感心させられる)の自然で、子役だからといって不自然に大人びた会話をしたり、子役特有の泣かせる、可愛く見せるといった特権に全く阿ることはない素晴らしい演技と、上述の回想シーンやそれぞれのエピソードが完全に子供目線で作られた結果、究極的にピュアな完成度を持つ奇跡的な映画に仕上がっている。子供を主人公にした映画は数あれど、純粋に子供を普通の子供として、さらに全編を通して子供目線で描ききった映画というのはこれまで数本しか知らない。その内容により自分の心が洗浄されるような愛すべき作品である。
監督のラッセ・ハルストレムは本作が認められ、ハリウッドにわたり「ギルバート・グレイプ」(1993)や「シッピング・ニュース」(2001)など良作を作ってはいるが、本作を超える作品は作りえなかった。