「永い言い訳」 2016年日 評価4.5 メジャー度1


監督:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、深津絵里他


 そこそこ人気の小説家、衣笠幸夫は学生時代に知り合って、その後結婚した美容師の夏子と暮らしているが、その仲は冷めきっている。ある冬の日、夏子は高校時代からの親友ゆきとのスキー旅行でのバス転落事故で帰らぬ人となってしまう。遺族会で知り合ったゆきの旦那のトラック運転手陽一と二人の子どもの手助けをしていく中で、幸夫は、全く関心のなかった夏子の朧げな記憶を思い出していく。

 平坦なストーリー展開でありながら、もの凄く集中して観ていられたという点で、衝撃的な作品だった。事件はバス転落事故で妻が死ぬことだけであり、あとはストーリーに起伏がそんなにあるわけではない。しかし、50年近くも生きてきた人間には、何が起こってもその根底から人間性を変えることなど不可能だという事実を正面切って描くという試み、最近流行りの「余命〇カ月」とかいう設定や、子役の周到な演技(そんな気持ち悪い子供がいるか!?といつも思ってしまう)による観客を泣かせる目的が見え見えのあざとい演出からの清い離脱により、煩わしい虚実性を全く感じさせないことで、全神経をストーリーに集中できたということなのだと思う。

 幸夫は、陽一やその子供たちの心に響くようなことを言うが、それはあくまで文学を職業としている人間として出た、心からではない言葉であって、彼自身、生き方を見直そうとは思ってなかった。しかし、孤独に生きていく現実の中で、最後の最後で、自分を愛してくれる可能性のあった人を失ったことに気付くのである。そのシビアで現実的な結論に導く、とてもシンプルかつストレートな力強い映画だと思う。

 もっくんは、妻が死んでも自分の生き方を変えられない、軽い中年男性を好演。また子役二人の、近頃の日本映画には珍しいごくごく自然な演技(そうそう、本当の子どもってのはこんなもんだ)がいいし、薄幸の中年女性を演じさせたら右に出る者がいない深津絵里は、登場場面は少ないながらも強烈な印象を残す。俳優陣もいいし、この監督の他の作品も観てみたいと思う。