「セッション」 2014年米 評価4.5 メジャー度3
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノワ 他
偉大なジャズ・ドラマーになるべく名門シェイファー音楽校に通う19歳のニーマンは、同校の名物教授であるフレッチャーに声をかけられ、彼のジャズバンドに参加することになる。フレッチャー教授の言葉の暴力と体罰による度を越した指導を受けつつも、なんとか一流のジャズマンになりたいニーマンは、付き合っている彼女とも別れ、友人もなくし、ドラムづけの日々を送るが、コンクールの場でついに教授に対し怒りを爆発させ退学処分となる。
まずは各映画賞で助演男優賞を総なめしているフレッチャー教授を演じたJ・K・シモンズの演技が圧巻である。学生への指導以外では優しいところも垣間見せ、ニーマンに対しても時に優しい視線を投げかけつつ、次の瞬間には鬼になるという、何とも嫌らしくも魅力的な鬼教授を怪演。
ストーリー的には、教授が厳しいのは天才を発掘するためというのが次第にわかっては来るのだが、なぜにそこまでニーマンを苦しめるのか、次はどんな手を打つのか?あれ?優しくなったぞ??など、人間感情の演出だけでここまで緊迫感を感じる映画というのもなかなかない。それは一級のミステリーのようで、ラストの捉え方も人によって異なると思うのだが、私は全てが教授の策略の上で転がされた、つまりラストは双方にとって望ましい姿に昇華したのでは?と謎解きのような楽しささえ感じた。
一方、綺麗な彼女を、ドラムに打ち込みたいからという理由であっけなく振ってしまうシーンなど、自分の能力を信じていた十代のころに誰もが持ったストイックで自分勝手な心情の描写の数々はなんとなく懐かしさを感じさせるし、近年稀に見る強烈なインパクトを残す人間ドラマである。
教授のいったセリフ「Good jobという言葉が人間をだめにしている。」が印象に残る。相手を褒めそやすことでその相手はその程度でいいのかと思い、更なる向上心をなくす。褒めて伸ばすということ、褒めることで相手を自分の使いやすいようにコントロールするという手法が正しいことのように感じさせられてきた近年、まさにはっとさせられる言葉である。
私は学生時代に、いわゆるジャズの名盤というのを一通り聴いてみたが、どうも好きになれなくて、以降、全く聴く気になってないのだが、感性に任せるように流れながらも、少しのテンポのずれも許されない緻密なこのジャンルに今一度足を踏み入れてみようか、と思わせるほどにジャズの魅力にもあふれた映画である。