「6才のボクが、大人になるまで。」 2014年米 評価4.5 メジャー度4
監督:リチャード・リンクレイター
出演:エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク、ローレライ・リンクレイター 他
6才のメイソンの父と母は離婚し、彼は母と姉と暮らしている。母は大学の講師として働き、シングルマザーとして二人の姉弟を育てていく。そんな母の再婚、新しい父親のアルコール中毒、二度目の離婚、ゲームばかりの少年時代から写真に興味を持つ高校時代等を経て、メイソンは大学生になる。
同一の俳優を使って12年間にわたって撮影を行ったというのがトピックス的に扱われるが、今の特殊メイクが格段の進歩を遂げた現代において、それだからといってあまり内容には寄与しないだろうと思っていた。しかし、やはり子供の12年というのは凄い進化の年月でもあるというのが実感させられる。少しづつ成長し、その折々を実際に同じ年月を経験している俳優が演じることで、わずか165分の尺の中に存在する過ごしてきた日々が鮮やかに、懐かしく、自分が経験または傍観してきたかのように感じるのだ。
物語自体は母親の男関係以外(本当に男運のない母親)は平穏に過ぎていく。主人公のメイスンは落ち着きのある少年・青年であり、別にエキセントリックなこともしない、誰でもがやる悪ふざけをするぐらいのごく普通の人間である。そして劇中に挟まれる、アル中の親方の二人の子供とのあっけない別れ、実父の再婚相手の両親の家に遊びに行った時の温かい誕生パーティ、教会への初めての出席、綺麗な彼女との恋愛と別れなど、様々なエピソードは、あっけなく、その一瞬だけを描いて後に引くことはなく、それぞれが微かな記憶として残っていくのだろうと、自分の持つ少年時代の記憶と照らし合わせて懐かしいことこの上ない。本当の人生には、人生を劇的に変わらせるようなイベントなんてないものだし、まさに映画のような人間がいるわけでもない。それでも、人生は良いものじゃないか、という何か不思議な温かさに包まれた映画だ。少し年月が経てば、ストーリーも忘れてしまうだろうが、この温かな印象は消えないだろうという珍しい映画だと思う。
メイソンが中学時代に、読んでいる本としてカート・ヴォネガットの「チャンピオンたちの朝食」を挙げる。この本は読んだことはないが、「スローターハウス5」でヴォネガットは人生は一つの4次元体として固まっていて、その中で何が起ころうと人生の大枠は決まっているという考えを示す。本作も、人生というのは経験してきたことにより色々なものになりえるということを、子を持つ大人からの視線で描いたものとは言えないか。また、実の父が誕生日に自分が編集したビートルズの4人のソロ曲集をプレゼントしその1曲目が「バンド・オン・ザ・ラン」だったり、特に父親と同じ世代の私としては、なかなか琴線を弾くエピソードも多い。