「風立ちぬ」 13年日 評価5 メジャー度5
監督:宮崎駿
出演:アニメ
実在のゼロ戦設計者・堀越二郎をモデルに、関東大震災から第二次世界大戦の間に飛行機の設計に情熱を捧げた青年を描く。
まず、夢の場面と現実が交錯し(とはいえ、「ここは夢の中」と親切にもセリフで言ってくれているのだが)、過去作品のような飛びぬけたファンタジックな描写があるわけでもないため、子供受けする内容ではないと思う。絵的には飛行機好きで知られる宮崎駿監督が好きなように作ったという感じだ。また、悪い人は全く出てこず、ストーリーは予期できる範囲を超えないため、物足りないという評価があるのもわかる。また、青年になってからの25年間程度を描いている割に、主人公は全く歳をとっているようには見えないという違和感や、ゼロ戦の設計者でありながら戦争に対する罪悪感がないとか、いろいろ突っ込むところもある映画だとは思う。
しかし、本作の意図するのは、自分の夢に情熱を傾けた人間と、仕事こそ男の第一の責務と認識して、慎ましく心で夫を支える妻の美しい生き方を描くことであり、それ以外の要素はほとんど排除したものとなっており、ストーリー的に面白くないという批評も正しいと思う。しかし描きたいことのみに徹底した結果として、その気持ちがストレートに何の曇りもなく伝わってくるのだ。最近、誰かが誰を好きということだけで、その人間のやるべきことそっちのけですったもんだするような安っぽい映画やドラマが増えているが、そんなものとは対極にある、人間の純粋な気持ちからの生きる意味と愛を描いた傑作だと思う。
ラストで私の流した涙は、これまでのような登場人物に感情移入してのものでは、確かになかった。この映画で描かれる人間たちの清清しい精神になぜかこぼれてしまったもので、新たな感覚からのものであったことを伝えておきたい。すでに自分に出来ることとこれからの人生の予測を出来るようになってしまった人間が、かつては持っていたであろう純粋で躍動する気持ちを、無意識に呼び覚まされた慕情によって溢れた涙だったのではないか。宮崎駿があと何本映画を作れるかわからないが、これからはもう見逃すことは出来ない。
ちなみに、話題になっているアニメ映画監督を起用した主人公の声は、ラブシーンはともかく、他はあまり違和感を感じない。また荒井由実の「ひこうき雲」は、死んでいった妻というよりも、二人に対してぴったりの歌である。