「アラビアのロレンス(完全版)」 62年英 評価5 メジャー度5
監督:デヴィッド・リーン
出演:ピーター・オトゥール、オマー・シャリフ、アンソニー・クイン、アレック・ギネス、アーサー・ケネディ、ホセ・ファラー他
第一次世界大戦中のスエズ運河のすぐ左に位置するシナイ半島で起こった、同盟軍(ドイツ側)のオスマン帝国に対するイギリスの協力を得たアラブ人による、いわゆるアラブ反乱を舞台に、イギリス側のアラブ人支援を行ったロレンスの生涯を描く、実話を基にした映画史に燦然と輝く名作。
鑑賞は85年、97年に次ぐ3回目だが、3時間46分という完全版を観たのも、また、映画館で観たのも今回が初めてである。とにかく贅沢な映画。上映時間もさることながら、砂漠という特殊な環境で流れるゆったりとした時間、とてもCGでは表現しきれない緩やかな砂塵や蜃気楼、生身のエキストラを使った壮大な戦闘シーン。もはやこんな映画は二度と現れまい。
前に観たときは英雄的なロレンスと、砂漠と戦闘シーンの素晴らしさが印象に残っていたのだが、完全版を、スクリーンで観て新たに感じられたのは、そのような壮大な描写の中で描かれるロレンスの心情の移ろい。一応アラブ民族の独立を旗印にしているが、裏ではドイツなき後の資源の奪い合いという国家の利権が蠢いており、その中で理念を掲げながらも揺れ動く一個人の弱さは決して英雄的ではない。ロレンス自身も今もって評価が定まらない人物らしく、自己顕示欲の強さや英雄然としているときのカリスマと、挫折したときの節操もない身勝手さなども様々な演出の中に窺い知ることが出来る。
また、本作が実質的なメジャーデビューとなったピーター・オトゥールの迫真の演技はもちろん、それを際立たせる、凛としてぶれないオマー・シャリフ、老獪なアレック・ギネス、粗暴なアンソニー・クインなどそれぞれの役柄に応じた演技も素晴らしく、内容、映像、音楽等々何をとっても超一流の、やはり名画中の名画という作品。